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「太く、強く、一つずつ年輪ができている」大阪桐蔭・西谷浩一監督が望む「伝統」とは?

 

大学球界でも中心的存在に


慶大の主将を務めた福井章吾(右)は大阪桐蔭高出身。母校が明治神宮大会で初優勝を遂げると恩師・西谷浩一監督(左)を祝福した


 大阪桐蔭高が明治神宮大会で4回目の出場にして、初優勝を遂げた。春のセンバツ、夏の選手権、秋の国体、明治神宮大会の四大大会制覇は史上8校目(帝京高、横浜高、報徳学園高、早実、日大三高、高松商高、中京大中京高)の快挙である。

 大阪桐蔭高は春3度、夏5度の甲子園優勝。紛れもなく高校野球界のトップランナーを走っており、全国のチームが目標とする存在だ。

 歴代2位の甲子園通算56勝(春優勝3度、夏優勝4度)を挙げている西谷浩一監督は、いくら実績を重ねても「大阪桐蔭に足りないのは伝統」と言い続けている。指揮官は兵庫の名門・報徳学園高、関西大学球界の古豪・関大でプレー。歴史の重みを知るだけに、1988年創部の大阪桐蔭高を、大事に育ててきた。

 指揮官の言う「伝統」とは、在校生だけでなく、卒業生の活躍を示す。むしろ、指導者としては、OBの健闘ぶりが何よりうれしく、後輩たちの励みにもなるという。現在、NPB各球団には看板選手が多く在籍しているが、大学球界でも中心的存在となっている。

 大阪桐蔭高が明治神宮大会で初制覇を遂げたあと、握手を求めてきたのは中央学院大との決勝を控えた慶大の主将・福井章吾(4年)だった。大阪桐蔭高野球部から慶應義塾体育会野球部へ入部するのは福井が初。当時高校3年生だった2017年、福井は学校関係者の協力もあり、超難関のAO入試を突破した。受験勉強の苦労、そして周囲への感謝を忘れたことはない。4年後、さまざまな縁が重なり、学生ラストステージとなった明治神宮大会で、母校に最高の恩返しをすることができた。

 慶大は中央学院大に惜敗して準優勝。東京六大学野球連盟のチームとして、初の年間タイトル4冠(春、秋のリーグ戦、全日本大学選手権、明治神宮大会)をあと一歩で逃したが、福井の表情からは4年間をやり切った達成感が伝わってきた。新チーム結成当初、慶大・堀井哲也監督から「この野球部を改革するのは、君がいる今年しかない」と言われたが、この1年間、部員173人が一つの目的・目標に向かう理想的なチームをつくり上げた。

後輩に受け継がれるマインド


 マインドは後輩にも、しっかりと受け継がれる。大阪桐蔭高で福井の1学年後輩は18年、甲子園で史上初の2度目の春夏連覇を遂げた「最強世代」だ。早大の新主将は中川卓也、立大の新主将は山田健太が務める。大阪桐蔭高、さらには高校日本代表でもキャプテンを務めた中川は「主将でチームは変わる」と高校当時、尊敬する先輩からバトンを受けた。

 一方、山田は立大の主将就任が決まり、すぐに福井に報告すると「自分たちの代を楽しんでやれよ!」と叱咤激励を受けた。高卒では同期4人(中日根尾昂ロッテ藤原恭大巨人横川凱日本ハム柿木蓮)がドラフト指名を受けたが、中川と山田は大卒でのプロ志望を表明している。22年も大阪桐蔭高の出身者が神宮の杜を熱くするのは間違いない。

 西谷監督はOBが活躍した映像を、冬場にミーティングの教材として活用することがある。また、関連する新聞・雑誌の記事も寮の掲示板に貼り出している。「太く、強く、一つずつ年輪ができている」。西谷監督が求める、この「年輪」とは、人間形成だ。先輩から後輩へとつながれる絆が「伝統」を築いていく。

文−岡本朋祐 写真=矢野寿明
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