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背番号物語

【背番号物語】平松政次「#3&#27」異色の変遷。「絶対に着けたいと思っていたわけじゃない」背番号が原点に

 

原点の「3」


プロ2年目から17年間、大洋で「27」を着けた平松


 この連載でDeNAの「27」は紹介しているが、この「27」は一般的には戦前から脈々と受け継がれてきた捕手の背番号。もともと捕手ナンバーではなかったチームも、時を経て、捕手が着けるようになることも少なくなかった。こうした潮流から一線を画しているのがDeNAの系譜だ。DeNAは山口は下関を拠点に誕生した大洋が起源。1978年に現在の横浜へ移転して、チーム名も変遷したが、もともと好投手のいた「27」は、平松政次の登場によって、現役の上茶谷大河に連なる投手の系譜として定着している。

 捕手ナンバーで異彩を放つ平松だが、その背番号の変遷も異色といえる。66年はドラフト会議が2度に分けて開催されたシーズンで、その第二次ドラフト2位で指名された平松。すぐに入団せず、もともと巨人への入団を希望していたことから、次のドラフトで巨人から指名されるのを待つのでは、という憶測もささやかれている。だが、このとき所属していた日本石油を翌67年の都市対抗で優勝に導くと、「巨人への思いは100パーセント断って」(平松)シーズン途中に大洋へ。背負ったのは「3」だった。

【平松政次】背番号の変遷
#3(大洋1967)
#27(大洋1968〜84)

 巨人への思い。これは少年期からあこがれていた長嶋茂雄への思いでもある。「巨人ファン、長嶋ファンでね。どっちが最初か分からないけど(笑)」と平松も振り返っている。平松が最初に着けた「3」は長嶋のトレードマークでもあるが、「絶対に着けたいと思っていたわけじゃないですよ。空いていたのが3番、13番。あとは60番以上でした。60番以上一軍の番号じゃないし、13番は縁起が悪い。3番は長嶋さんも着けているし、いいな、と」(平松)決めたという。

 背番号の系譜に頓着しないのがDeNAの持ち味だが、チームの歴史で最多の201勝を挙げた平松も、あこがれの背番号とはいえ、たまたまだったようだ。実際、2年目の68年からは「27」に。すでに巨人では司令塔の森昌彦が着けていて、「27」に捕手の印象が醸成されつつあったものの、まだ投手も多い時期ではあった。

象徴の「27」


プロ1年目は背番号「3」だった


 シーズン途中のプロ入りながら、1年目から背番号と同じ3勝を挙げて、長嶋との“「3」対決”も実現させた平松。背番号を「27」へと変更したものの、巨人との因縁は変わらず。同じく岡山県の出身で、プロでは後輩となる中日星野仙一のように闘志あふれるスタンスはとらなかったが、巨人への対決姿勢は鮮明だった。“最強の巨人キラー”の物語が紡がれたのは、「27」を背負ってからだ。

 150キロの球速を維持したまま右打者の内角へと鋭く食い込む“カミソリシュート”が誕生したのは69年のキャンプ。これがV9という空前絶後の黄金期を謳歌していた巨人、その主砲だった長嶋茂雄に襲いかかる。「長嶋さんを打席に迎えると特別なアドレナリンが出た」と平松も語るが、72年7月20日から翌73年7月17日の第2打席まで25打席の対決で、長嶋に許した安打はゼロ。長嶋は投球の途中でグリップを短く持ち替えるなど、平松の攻略に腐心した。

「おかしな打ち方をするな、最初からすればいいのに、と思っていたんですが、ずっと(長嶋が)現役のときには聞けなかった。僕の200勝パーティーに来ていただいて、『いっぱいに持ったら詰まるからバットを短く持たなきゃいけないと思った。でも、あの巨人の四番がバットを短く持ったら、ファンに申し訳ないじゃないか。打つ瞬間ならファンも分からないだろう』って」と平松。長嶋と“ON砲”で並び称された王貞治には通算235打数で87安打、25本塁打、打率.370と打ち込まれたが、長嶋は通算181打数で35安打、8本塁打、打率.193と抑え込んで、巨人戦は通算51勝47敗。白星が黒星を超えている投手では平松が“最多勝”となる。

 83年に念願だった通算200勝に到達したのも巨人戦だった。翌84年も現役を続行したが、ついに優勝を知らないまま現役を引退。若き遠藤一彦のマウンドを受け継いでの引退試合は、遠藤にエースの座を託すようにも見えた。

 その後、平松の「27」は、エースナンバーの系譜にはなっていない。ただ、平松が大洋のエースだったことは紛れもない事実。「27」は平松という唯一無二のエースを象徴する背番号だった。

文=犬企画マンホール 写真=BBM
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