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「俯瞰でモノを見られる」星野仙一氏が平石洋介コーチを高評価していた理由

 

『星野仙一記念館』が閉館


楽天時代の星野監督[写真=BBM]


「闘将」として知られ、中日阪神、楽天で監督を歴任、リーグ優勝4度、日本一1度の輝かしい実績を残した星野仙一氏(享年70歳)のゆかりの品々を展示した『星野仙一記念館』が11月30日をもって閉館した。同記念館は星野氏の故郷、岡山・倉敷市の美観地区にあり、2008年3月の開館以来のべ50万人が訪れたと言う。コロナ禍による度重なる臨時休館、展示品の収集や運営を担ってきた延原敏朗館長の年齢(80歳)など閉館の理由はいくつかあるようだが、ファン、関係者の間に惜しむ声は多く、10月中旬の閉館発表以降、1カ月余りで約8500人が来館し、星野氏の野球人生に想いを馳せた。

 その中の一人が最終日に訪れた西武平石洋介打撃コーチだ。PL学園高から同志社大、トヨタ自動車を経て、05年に楽天“1期生”としてプロ入り。11年シーズン限りで現役を引退した当時の監督が星野氏であり、翌12年は二軍コーチ、チームが日本一に輝いた13年は一軍コーチとして星野イズムを叩き込まれた。「今の僕があるのは、間違いなく星野さんのおかげ」と話す平石コーチは、楽天の監督就任が決まった18年秋にも記念館を訪れており、「身の引き締まる思いというか、頑張ろうと思えた。同じ写真を見ても、こちらの気持ち次第で感じ方が違う。節目節目でご挨拶させていただいている」と“恩師”の存在の大きさを語った。

 記念館には野球を始めた幼少期から殿堂入りを果たした晩年まで星野氏の写真が数多く展示されているが、平石コーチの胸に最も深く刻まれているのは、星野氏が生前、暮らした兵庫・芦屋市の自宅に飾られている遺影だ。悩んだとき、進むべき道を決断するときには必ず足を運び、手を合わせた。

「何か言いたそうな顔に見える。監督になるときは『しっかりやれよ』『お前、できるんか』と言われている気がした。楽天を退団するときも、監督がいたら何と言うだろうと……」(平石コーチ)

 30代での監督就任は、40歳で初めて中日の指揮を執った星野氏よりも若い。「お前、できるんか」と言われている気がしたのも無理はないが、星野氏はきっと「お前ならできる」と言っていたに違いない。なぜなら、平石コーチが現役時代からその資質を高く評価し、「アイツは俯瞰でモノを見ることができる」「楽天生え抜きの監督は平石しかおらん」といった発言を度々していたから。

 平石コーチはいわゆる“松坂世代”の一人で、1998年の夏の甲子園準々決勝で松坂大輔擁する横浜高と延長17回の死闘を演じたPL学園高の主将。強いキャプテンシーは当時から有名で、プロで残した数字は平凡ながら、引退翌年から指導者の道を歩み始め、楽天退団後もソフトバンク、西武とコーチの声が掛かるのは、星野氏の目が確かだったことをうかがわせる。

恩師の忘れられない言葉


展示物を見学する平石コーチ


 相手を見て忖度することなく、言うべきことをしっかり言うところも評価のポイントだったようだが、それを証明するようなエピソードを平石コーチ自身が教えてくれた。

「一軍コーチ(打撃コーチ補佐)になったシーズン、監督から“代打バント”の指示がありました。でも指名されたのはあまりバントのうまくない選手。だから〇〇にしてくださいって言ったんです。代走のスペシャリストのような選手でしたけど、バントもうまかったので」

 星野氏は若手コーチの進言を聞き入れ、代打起用。その選手は見事に送りバントを成功させてみせた。「あのあとですかね、監督といろいろな話をするようになったのは」(平石コーチ)。実績十分で「闘将」と呼ばれるほどの監督に臆することなく意見を述べる姿に何かを感じ取ったのだろう。以来、平石コーチは監督から頻繁に食事に誘われるようになる。食事の席では野球の話をほとんどしなかったと言うが、それでも学ぶことは多かった。

「最も影響を受けた監督は誰かと聞かれたら、間違いなく星野さん。今も顔や言葉を思い出す。印象に残る言葉? たくさんあり過ぎて絞れないですね」

 そう言った平石コーチだが、忘れられないのは「野球人口が減っている。野球ができる環境が減っている。野球界が危ない」という、野球界の未来を憂う言葉の数々。

「僕もそれをものすごく意識するようになりました。コーチとしてチーム(西武)が勝つためにやるのは当然なんですけど、今後の野球界のためにもみんなで力を合わせてやっていかなければと思っています」

 星野イズムは脈々と受け継がれている。

文=岡部充代
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