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「やったヤツが勝つ」早大・小宮山悟監督が継承する“飛田野球”の真髄とは?

 

石井連藏氏の記念碑が建立


早大・小宮山悟監督は12月4日、水戸一高で行われた石井連藏氏の記念碑の除幕式に出席。大学時代に教わった恩師からの教えを確認し、あらためて心に誓った


 2020年1月、特別表彰で野球殿堂入りした石井連藏氏の出身校である水戸一高(茨城)に記念碑が建立。12月4日に除幕式が行われた。

 隣には石井氏の師で「学生野球の父」と言われる飛田穂洲氏の胸像がある。早大時代に2年間、石井氏から指導を受けた早大・小宮山悟監督が出席し「感無量です」と語った。

 1901年創部の早稲田大学野球部の初代部長・安部磯雄氏が「生みの親」ならば、初代監督を務めた飛田氏は「育ての親」。長く学生野球界の発展に貢献し、飛田氏が発信した「一球入魂」は今もなお、指導現場において多大な影響力を与えている言葉だ。水戸一高から早大へ進んだ石井氏は、飛田氏の「秘蔵っ子」と敬愛された(飛田氏の在籍時は水戸中)。

 直系の先輩、後輩の間柄であり、石井氏には早稲田大学野球部の教えが体に染み込んでいた。早大では四番・エース、そして主将としてけん引。東京六大学通算21勝を挙げ、4年秋には首位打者と、今で言う「二刀流」の活躍を見せた。卒業後は社会人野球でプレーし、2期(1958〜63年、88〜94年)にわたり早大の監督を務めた。1960年秋の早慶6連戦での逆転優勝は、現在も語り継がれる名勝負。計13年で4度のリーグ優勝へと導いている。

 2期目の教え子が小宮山監督で、大学4年時には主将を務めた。「一生懸命、を口で言っているうちではダメ。目の前のことを、死に物狂いでやらないとダメ。やったヤツが勝つ。そのおかげもあって、へこたれずに野球を続けてこられた」。2浪で早大入学した小宮山氏はドラフト1位でプロ入りし、NPB通算117勝、メジャー・リーグのマウンドにも立った。

 小宮山氏は2019年1月の母校監督就任以来、早稲田のあるべき姿を追求し、学生を指導している。かつて、石井氏との思い出をこう語っていたことがある。

「キャプテンは監督と接する機会が多い。練習後は毎日、ミーティング。その場に野球部のOBがいらっしゃることも多く、飛田先生の話を聞く機会にも恵まれた。飛田先生の教えを、そっくりそのまま石井さんが受け継いだと思っているので、諸先輩方と話をしても、理解できる部分は多々ある。飛田先生、石井さん、そして早慶6連戦でマスクをかぶった野村さん(徹)が監督(1999〜04年)として飛田野球を継承してきましたが、私も『やったヤツが勝つ』と訴えてきたつもりです」

伝統を重んじながら柔軟性も


 小宮山監督は大先輩3人から受け継いできた教えを下に指導現場に立ち、3年を終えた。

「困ったときは、石井さんだったらどうするかな、と。行動の指針として、決断しているつもり。これで良いのか、と常に問いかけて、自分の決断に納得するようにしている」

 伝統を重んじながらも、柔軟性もある。

「飛田先生の教えを、今の時代に当てはめたらマッチしない。大事にしないといけないものを曲げるつもりはないですが、学生たちの考えも理解しないといけない部分はある」

 除幕式では挨拶をした。厳格として知られた石井氏だけに、小宮山監督は記念碑の横で背筋を伸ばした。独特な言い回しで、こう語った。

「この秋は慶應に優勝をさらわれて、お叱りを受けている感じがします。こんなところへ来ていて、良いのか。練習だろ、と(苦笑)。(1954年夏以来遠ざかる水戸一高が)甲子園にコマを進めることができて、狂喜乱舞するときが来ることを、陰ながら応援したい。石井さんからは、人のことを応援している場合ではない、とまた、言われそうですが……」

 除幕式が終わると、小宮山監督は「(石井氏に)怒られるので、帰ります(苦笑)」と、午後からの練習に出るため、足早に同校を後にした。早稲田大学野球部に6つある部訓のうちの一つが「練習常善」である。

「安部先生、飛田先生から教わってきたものとは、試合のために活動しているのではない、ということです。日々、自己研鑽に努め、今できるベストを尽くす。グラウンドでの鍛錬は練習で得る。それが、最も尊いもの。活動の成果を確認するのが試合です」(小宮山監督)

 早大の活動拠点である安部球場での鍛錬は、ゆくゆくは人生を歩む上での大きな原動力になる。いつの時代にも相通じるものが、飛田野球の根底にある。水戸一高の現役部員たちも、先輩からの教えを守って活動を続ける。

文=岡本朋祐 写真=BBM
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