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プロ野球はみだし録

1エラーで炎上した高木守道。与那嶺監督は「何回モリミチのおかげで勝ったと思うの!」【プロ野球はみだし録】

 

ファンがバスを囲んで「守道を出せ!」



 かつて中日の本拠地だったナゴヤ球場について、当時のナインは「グラウンドと客席の距離が近かった」と口をそろえる。声援も届きやすかったが、それはヤジも同様だった。熱狂的なファンはチームの躍進に不可欠な部分もあるが、これも諸刃の剣なのかもしれない。

 好打はファンの喝采を浴びるが、守備の失策にはヤジが飛ぶ。ナゴヤ球場の出来事ではないが、1974年6月26日の大洋(現在のDeNA)戦(川崎)だった。4月を12勝4敗と大きく勝ち越して首位と最高のスタートを切った中日は、5月に投手陣の崩壊で負け越して3位に転落。6月は打線の好調で持ち直して2位に浮上したが、この26日は1点差で惜敗、3連敗に。帰りのバスでファンの集中砲火を受けたのは高木守道だった。高木は球史でも十指に入るであろう二塁守備の名手だが、この日の試合では珍しくエラー。ファンの目には高木が“戦犯”に映ったのだろう。ナインの乗るバスを取り囲むと、「守道を出せ!」と怒号を浴びせた。

 このとき、すさまじい剣幕で怒鳴り返したのが、ふだんは温厚な与那嶺要監督だった。バスの窓から顔を出して、「これまで何回、モリミチのおかげで勝ったと思うの!」と一喝。ハワイ出身の日系人のため日本語は母国語ではなかったものの、与那嶺監督の言葉は、まさに真実だった。これに高木が応える。その2日後、まだ名称は中日球場だったが、本拠地に首位の阪神を迎え撃った中日。その直接対決で、高木はサヨナラ二塁打を放つ。そのまま中日は6連勝。だが、中日が首位に立つのには時間を必要とした。ようやく首位の座を奪い返したのは9月3日のことだ。そこから中日は首位を譲らず、10月12日、巨人のV10を阻む歴史的なリーグ優勝を成し遂げている。

中日・与那嶺要監督


 時代は変わり、執拗なヤジはインターネット上の誹謗中傷に姿を変えたか。そこには与那嶺監督のように、分かりやすく明快に反撃する手段はない。ただ、それまでの勝利への貢献を忘れ、1度の失敗に固執して多勢に無勢と攻撃を仕掛けるファンの姿からチームの明るい未来が見えないのは変わらない気がする。

文=犬企画マンホール 写真=BBM
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