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【MLB】教訓とすべき、1990年のロックアウト

 

1990年当時のビンセントMLBコミッショナーの下で32日間のロックアウトになったこのときは火種が残り94年のストライキに。今回、マンフレッドと選手会はどのような手綱さばきを見せるだろうか


 MLBで前回ロックアウトになったのは1990年、キャンプが始まろうとしていた2月15日で32日間続いた。オープン戦410試合のうち362試合がキャンセルされた。

 筆者はその3月からスポーツ記者としてロサンゼルスで働き始めたこともあり、そのときのことは強く印象に残っている。3月8日当時のフェイ・ビンセントMLBコミッショナーはメディアに「90年シーズンにストライキをしないと誓約してくれるなら、ロックアウトを解除し、選手がキャンプ施設を使えるようにすると選手会に持ち掛けた」と明かした。だが選手会のドン・フェア代表は「メディア向けにそんなことを言っているだけ。正式に提案されたわけではない。選手はストライキの権利を放棄すべきではない」と一蹴した。

 当時と現在で違うのはオーナーたちが分裂していたこと。のちにコミッショナーになるミルウォーキー・ブリュワーズのバド・セリグオーナーは「今のシステムだと大きなマーケットのチームと戦えない。労使協定が大きく変わらないと」とし、一部公式戦がキャンセルされてもロックアウトを続けるべきという考えだった。

 パイレーツのオーナーは「私たちのチームはファームのようなもの。良い選手を育ててもFAでつぎつぎに取られてしまう」と惨状を訴えた。一方ヤンキース、ドジャース、カブスら大都市球団のオーナーたちは早く合意して欲しかったし、レンジャーズのジョージ・ブッシュオーナー(後の大統領)は89年4月にチームを買ったところだったため、試合がしたかった。当時からインディアンス担当のポール・ホインツ記者は「70年代に始まり、当時の労使交渉はマービン・ミラー、ドン・フィアーら選手会代表が一枚上手で、いつも選手会側が勝利していた」と振り返る。

 オーナーが提案した収益分配案は実現せず、新協定では選手の最低年俸は6万8000ドルから10万ドルに増え、ベンチ入り枠は24人から25人となり、メジャー在籍年数が2年でも上位17パーセントは調停権を得られる「スーパー2」のルールができた。

 90年シーズンは開幕が1週間遅れたが、最終日もずらしたおかげで162試合消化できた。しかしながらセリグ氏らスモールマーケットのオーナーたちの不満は募る一方で、火種を残した。結果4年後に再び労使協定が失効すると、サラリーキャップ導入をめぐって労使決裂、ストライキになり、ワールド・シリーズキャンセルで球史に大きな汚点を残している。

 あれから27年、今振り子は反対側に振れている。ホインツ記者は「対照的に、近年はオーナーたちがうまくやっている。頭の良いGMを雇って、若い選手をうまく育て、強いチームを作るようになった。若い選手に高い給料はいらない。一方で30歳の高額のベテランは要らなくなった。選手が不満でもオーナーたちは今のこのシステムを変えたくないだろう」と見る。

 とはいえMLBの労使は共存共栄だ。オーナーたちは選手の声に耳を傾けるべきだろう。ベテラン選手が不満を募らせ、怒っているのは確か。新しい協定で合意できたとしても90年のように火種を残してはならないのである。

文=奥田秀樹 写真=Getty Images
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