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[MLB]戦力均衡策は何をもたらしたか

 

戦力均等策を考案した中で、経営陣は選手へのお金の分配ではなく長期プランでコストを抑える方へと向かい、今回の労使協定、ロックアウトにつながった。マンフレッド・コミッショナーはどうかじ取りをするだろうか


 ロックアウトに入ったとき、ロブ・マンフレッドMLBコミッショナーは戦力均衡策の維持が今後のリーグの成功に不可欠と説明した。どうしてもビッグマーケットチームとスモールマーケットチームで収益に大きな差が生まれる。不公平をなくし、各チームの実力を均一化し、試合内容を充実させようというもともとの狙いだ。

 1990年代、2000年代にバド・セリグ前コミッショナーが尽力し、収益分配制度、課徴金制度を導入。結果確かに98年から00年のヤンキースの3連覇以降、MLBでは連覇がなく、毎年チャンピオンが入れ替わっている。しかしながら各チームの実力を均一化し、試合内容を充実させられているかというと、そうではない。

 21年シーズン、サラリー総額は1位のドジャースが2億7120万ドル、30位のオリオールズは4242万ドルと2億3000万ドルも差があった。そしてオリオールズ、ダイヤモンドバックス、パイレーツ、レンジャーズの4球団が100敗を喫した。お金があっても、使わないチームがある。19年もタイガース、オリオールズ、マーリンズ、ロイヤルズが100敗。特にタイガースは47勝114敗、勝率.292だった。

 18年も3チームが100敗し、47勝115敗のオリオールズの勝率は.290である。プロ野球で勝率2割台はなかなかない。以前なら、これだけ弱いとお客が入らないし、収益が激減するため、何とか勝てるようにと努力した。だが今は、収益分配制度で救済してもらえるし、完全ウエーバー制のドラフトで上位指名権を得るために、悪い成績を残すことが正当化されている。

 5シーズン連続でア・リーグ優勝決定シリーズに進出したアストロズは、11年が106敗、12年が107敗、13年が111敗で、続けて良いドラフト指名権を得て、強豪チームの土台を築いた。収益分配制度で回ってきたお金は、FA市場ではなく、ドラフト指名選手や国際選手の契約金にあてられ、あるいは育成部門や、アナリティック部門で使われた。それがFA市場のベテラン選手には行かなかった。

 おかげでMLB選手の21年の平均年俸は17年に比べ6.4パーセントも下がり、サラリーの中央値も15年に比べ30パーセントも下がった。つまり一連の戦力均衡策は、必ずしも当初意図したようには機能していないが、経営陣がより賢くなり、長期的なプランでチーム作りを考え、無駄なコスト(FA選手の衝動買い)を大幅に省いた。

 そこで今回、選手会は新しい流れに即して、収益分配制度、課徴金制度の見直しを求め、選手がFA権、調停権をより早く獲得できるルール変更を訴えているのだが、コミッショナーが今さらのように戦力均衡策の重要性に言及するため、違和感を覚えるのである。

 前回も書いたが、オーナー側はうまく機能している現状のシステムを変えたくはない。しかしながら新たな収益拡大案として、ポストシーズン出場チームを10球団から14球団に増やそうとしている。選手会もそれに反対ではないが、それを認める交換条件として、選手が金銭的に報われるルール変更を新たに引き出そうとしているのである。

文=奥田秀樹 写真=Getty Images
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