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背番号物語

【背番号物語】西本聖「#26」テレビ中継の黄金期に江川卓と切磋琢磨、背番号の象徴的な存在に

 

逆境に輝く投手たちの「26」


背番号「26」を着け、左足を高々と上げる投球フォームが特徴だった西本


 背番号を自らの象徴に昇華させる選手がいる。こうした選手は、プロ1年目から現役を引退するまで、同じ背番号で過ごすことが多い。一方で、いくつもの背番号を渡り歩いた選手は、その象徴といえるナンバーを絞り込むのは難しいものだ。ただ、ひとつの背番号を、キャリアを通して一貫して背負い続けたわけではなくとも、その背番号の象徴的な選手に挙がってくる例も少なからず存在する。巨人の「26」を背負った西本聖は、そんな選手の筆頭格といえるだろう。

「26」は全体として投手が多い背番号。DeNAのような好打者の系譜は少数派で、ロッテの「ファンの背番号」というのは例外的な存在だ。「26」の投手は逆境が似合うのが特徴。ライバルの阪神には抜群の制球力を誇った“精密機械1号”渡辺省三がいたが、渡辺は打撃投手から第一線に躍り出た右腕だった。時は流れ、その阪神では着けなかったが、投手は先発完投が至上のものだった時代、阪神を放出されて南海(現在のソフトバンク)へ移籍、救援のマウンドで復活を遂げて、広島日本ハムを頂点に導いて“優勝請負人”と呼ばれるようになった江夏豊が「26」だ。時間をさかのぼると、1リーグ時代、中日の初代には特攻に散った石丸進一がいる。逆境の風景はそれぞれだが、そんな「26」のひとりが西本だった。

 時代もあったかもしれない。西本の全盛期は1980年代で、巨人には“怪物”江川卓がいた。空前絶後の騒動を経て巨人への入団を果たした江川は、プロ2年目から真価を発揮する。そんな江川をライバル視したのが、ドラフト外の入団だった西本。その反骨心は江川の闘志に火をつけて、燃える江川を目の当たりにすることで、ますます燃え盛ったのが西本だ。両雄の切磋琢磨はテレビのブラウン管を通して多くのファンが目撃した。当時は巨人戦テレビ中継の黄金期でもある。天に君臨する江川の存在を貫くかのように左足を高々と上げる豪快なフォームは、当時の少年たちを魅了してやまなかった。

【西本聖】背番号の変遷
#58(巨人1975〜76)
#26(巨人1977〜88)
#25(中日1989)
#24(中日1990〜92)
#52(オリックス1993)
#90(巨人1990)

最後は長嶋監督の後継者に


 西本が「26」を背負ったのはプロ3年目の77年から。それまではドラフト外の投手らしく「58」だった。当時のライバルは同い年で入団も同期ながら、ドラフト1位の定岡正二だった。甲子園のアイドルで人気も抜群だった定岡に対し、なかなか注目されない西本だったが、77年に「26」を背負うと、プロ初勝利を含む8勝4セーブと台頭する。定岡を抜いたと思った矢先の79年、江川がチームメートに。西本は80年に初の2ケタ14勝、翌81年には18勝でリーグ優勝に貢献、沢村賞に輝いたが、20勝で最多勝となった江川が沢村賞に選ばれるべきだったという冷淡な反応もあった。それでも日本ハムとの日本シリーズでは2勝、防御率0.50で日本一の立役者となり、文句なしのMVPに。江川との切磋琢磨は、その後も江川が引退する87年オフまで続いた。

中日移籍1年目、背番号「25」で20勝をマーク


 西本は89年から中日でプレー。移籍1年目は「25」を背負い、古巣の巨人戦での5勝を含む自己最多の20勝を挙げて最多勝のタイトルを獲得する。プロ15年目の初タイトルでもあった。ただ、翌90年に背番号を変更して「24」となり、11勝を挙げるも、これが最後の2ケタ勝利。その後は故障もあって満足な活躍ができず、93年にオリックスへ。新たに「26」の倍でもある「52」で5勝を挙げるも、オフに退団。恩師である長嶋茂雄監督が復帰した巨人のテストを受けて翌94年に復帰する。ちなみに、テストに合格するまでは背番号なし。背番号のない巨人のユニフォーム姿の写真も残る。

94年の巨人春季キャンプでテストを受けた際は背番号なし


 最後の背番号は「90」。西本がプロ入りしたときに長嶋監督が背負っていたナンバーで、第1期の長嶋監督にとってはトレードマークといえる背番号だった。長嶋監督の後継者となった形の西本だったが、「90」では一軍登板なく、オフに現役を引退。かつての功労者に華やかな引退セレモニーはなかったが、定岡ら有志の奔走によって開催された多摩川グラウンドでの引退試合には長嶋監督も駆けつけて、「90」の西本と対決するシーンも。これが西本のフィナーレだった。

文=犬企画マンホール 写真=BBM
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