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プロ野球はみだし録

江川卓に「逃げられた」西本聖、トレードで中日へ。同一リーグ移籍の危惧と期待【プロ野球はみだし録】

 

落合とのトレード“回避”も……


89年、巨人から中日に移籍して20勝をマークした西本


 1987年オフ、巨人の江川卓がシーズン13勝を残しながらも現役を引退する。このときのことを「ずるい、逃げられた」と振り返るのが西本聖。同じ巨人で江川をライバル視して、ともに切磋琢磨しながら、“魔球”とも評されたシュートを駆使して一世を風靡した右腕だ。

 故障もあって81年のキャリアハイを超えられなかった江川だが、これは西本も同様だった。この87年には、ロッテで3度の三冠王に輝いた落合博満が中日へ移籍、初対決で西本が徹底的にシュートを投じて4打数1安打に抑え込む名勝負もあったが、これが西本にとって巨人での最後の輝きだったのかもしれない。首脳陣との確執で出番を減らしていたことに加え、江川が去ったことで原動力となっていた闘志の炎が消えかかっていた。

 落合がロッテで移籍を志願したときにも、その交換要員として名前を挙げられていた西本。このときは中日が獲得することとなり移籍は回避したが、奇しくも89年から中日で落合とチームメートとなる。このときは「いいんじゃないんですか、俺には野球しか生きる道はないんですから」と語っていた西本だが、「ジャイアンツに出されたんだから、見返すには同じセ・リーグの球団で対戦して勝つしかない」と思っていたという。消えかけていた闘志が、ふたたび燃え上がったのだ。

 これは巨人でもフロントの一部が危惧していたこともであった。「西本は闘志むき出しで巨人に向かってくるはずだ。中日に出していいのか」という声に対して、「ライバル同士でも、こういったトレードをすることが球界の活性化につながる」と言い切ったのが、迎えた89年に復帰したばかりの巨人の藤田元司監督。西本は藤田監督の“期待”にも応える。

 西本は「どのチームよりも巨人に負けたくない」と巨人戦で5勝、最終的には自己最多の20勝を挙げて初の最多勝。これは江川のキャリアハイに並ぶ白星でもあった。西本に苦しめられた巨人も劇的な展開に。西本の復活はセ・リーグを盛り上げた一方、そのセ・リーグを巨人は2年ぶりに制して、3連敗からの4連勝で8年ぶりの日本一に輝いている。

文=犬企画マンホール 写真=BBM
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