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【MLB】労使交渉の流れが変わった2002年

 

2002年はチーム減少の可能性をにおわせて選手会と交渉を行ったバド・セリグ前コミッショナー。今回はどういう形で妥結するのか。または02年同様に協定のないまま開幕をスタートさせるのだろうか


 ロックアウトになった現在、思い出すのは2002年の出来事である。古い労使協定が01年のシーズン後に失効、新たな労使交渉はぜい沢税の導入が最大の争点で決裂、02年シーズンは協定がないままスタートした。8月16日、選手会は30日までに合意できなければストライキ決行と発表。筆者はその年、イチローのいたマリナーズと野茂英雄石井一久のいたドジャースを担当していた。16日終了時点でイチローは.343の首位打者、チームもア・リーグ西地区首位。ドジャースもナ・リーグのワイルドカード争いのトップで野茂&石井は2ケタ勝利をしていた。

 ストになれば、彼らの9月の優勝争いが見られなくなるばかりか、1994年のようにワールド・シリーズもなくなる恐れがあった。当時のドジャースの主砲ショーン・グリーンは「ゲームにとって正しいことをやりたい。誰もストライキは望まないが、そうなってしまったらそうなったときのこと」と決意を口にしている。

 結果30日に合意、バド・セリグ前コミッショナーは「歴史的合意」と総括したが、今振り返ると、大げさではなかったと思う。セリグはブリュワーズのオーナーだった70年代後半から労使交渉に関わってきたが、マービン・ミラー、ドナルド・フェアー率いる結束の固い選手会に連戦連敗。94年はサラリーキャップを導入しようとしたが、ストに出られ、また惨敗した。

 これ以上は負けられない。そこでこのときは思い切った手段に出た。01年の11月、セリグは「オーナー会議の投票で2球団を削減する案が可決された」と発表した。「交渉の駆け引きではない」と付け加えたが、2球団が削減されれば、メジャーの試合出場選手が50人も減る。選手会を動揺させるのに十分だった。選手会幹部はすでに導入されていた収益分配制度に加え、ぜい沢税まで認めれば、実質サラリーキャップのようになると恐れていた。

 19年が経過し、心配どおりだったと分かるのだが、ストを決行すれば公式戦残り431試合がキャンセルされ、オーナー側は4億ドルの収益を失うと見積もられていた。となると本当に球団削減に陥るかもしれない。両者は8月30日午前2時まで交渉、早朝再開し、9時前に合意した。

 ぜい沢税が導入され、03年、サラリー総額1億1700万ドルを超えたチームは超過分の17.5パーセントを税負担、税率は超過を続ける度に上昇、最大40パーセントになると決まった。一方でオーナー側は06年シーズンの終わりまで球団削減はないと約束している。セリグはようやく労使交渉で勝利し、以後、MLBの球団価値はスモールマーケットのチームも含め飛躍的に上昇していく。一方、選手の年俸は当初、トップクラスの年俸が抑えられ、中間層が恩恵を受けると予測されたが、そうはならず、中間層はより給料の安い若手にとって代わられ、多くのベテラン選手が不満を募らせる現状となってしまった。

 ちなみに02年のペナントレースはマリナーズもドジャースも失速し、3人はひのき舞台に立てなかった。代わって新庄剛志のジャイアンツが勝ち上がり、新庄は日本人初のワールド・シリーズ出場の栄誉をつかんでいる。

文=奥田秀樹 写真=Getty Images
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