週刊ベースボールONLINE

大学野球リポート

なぜ慶大・堀井哲也監督は明治神宮大会決勝直後、早くも目標を「春の開幕戦」に設定したのか

 

「チームとしての体力をつけないといけない」


慶大の主将・下山悠介は3年秋までに現役2位の57安打。今春の目標はチームをリーグ優勝へ導いた上で、初の首位打者奪取である


 慶大は1月8日、新年始動した。かつては学年末のテスト期間がすべて終了した2月上旬から、全体練習をスタートしていたが、堀井哲也監督が就任した2020年以降は方針を変更。とはいえ、1月はあくまで「自主参加」で、学業を優先するスタンスは変わらない。

 慶大には「文武双全」という言葉がある。「文武両道」をさらに発展させた教えであり、限られた時間を有効活用する意図がある。慶應義塾の創立者・福澤諭吉氏が提唱した「独立自尊」の精神と共通する教育理念だ。

「野球は、義務でやることではない。(グラウンドに)来られる状況になったら、来ればいいんです」(堀井監督)

 慶大は昨年、30年ぶりの春秋連覇。6月の全日本大学選手権では34年ぶりの日本一を遂げた。11月の明治神宮大会も決勝へ駒を進めたものの、中央学院大に惜敗。東京六大学の加盟校として初の「年間タイトル4冠」を、あと一歩のところで逃した。

「チームとしての体力をつけないといけない」(堀井監督)

 指揮官は明治神宮大会決勝直後、3年生以下に対して、早くも目標を「春の開幕戦」に設定した。なぜ、約4カ月半後に控えた春のリーグ戦に照準を合わせる指示を出したのか。これには、苦い教訓があった。

 昨春の開幕カードとなった法大1回戦。慶大は相手先発・三浦銀二(現DeNA)に62年ぶりのノーヒットワンランで敗退した。開幕戦の反省を下に以降、8連勝で優勝を遂げたが、シーズンの「入りの難しさ」を反省。同じ轍を踏むわけにはいかない。慣例でいけば、前季優勝校の慶大は、今春の開幕戦で前季最下位の東大との対戦が予想される。

「シーズン最初の公式戦は雰囲気が変わるので……。秋は明治神宮大会で息切れしたので、スタートから最後までを、より意識させたい」(堀井監督)

 今春は1971年秋から72年秋にかけて以来、50年ぶりのリーグ3連覇がかかる。

「どうしても(周囲は)4冠、日本一など大きな話になる。目標のターゲットを絞っていかないと、足元がふらつく。ゼロベースから積み上げていきたい」(堀井監督)

 旧チームから右腕エース・森田晃介(JFE東日本)、正捕手・福井章吾(トヨタ自動車)、一番・渡部遼人(オリックス)、四番・正木智也(ソフトバンク)と中心選手が卒業した。特にリーダーシップ抜群だった主将・福井について、堀井監督は「一つのポジションだけではない穴がある」と語った。とはいえ慶大に限らず、在籍4年間の大学野球において、選手の入れ替わりは常。堀井監督は「選手の立場からすればチャンス」と、心配しておらず、むしろ新戦力の台頭に期待している。

良き伝統が引き継がれ見当たらない死角


慶大の左腕・増居翔太は1回戦の先発として5勝以上を目指し、卒業後のプロ志望を表明している


 頼りになる旧4年生が抜けた一方で、春秋連覇を経験した多くの新4年生が健在だ。1年秋から三塁のレギュラーで主将・下山悠介(4年・慶應義塾高)は言う。

「良いチームをつくり、全員が喜べる集団にしたい」。そして、こう続けた。「昨年のチームが大好き。マネをしたくなりますが、自分たちの色にしていきたいです」と語る。打線の軸としては「率を残せるタイプだと思うので、首位打者を狙います」と目を輝かせた。

 3年秋までに通算7勝を挙げ、新エースとして期待される146キロ左腕・増居翔太(4年・彦根東高)は、1回戦の先発として「最低5勝はしたい」と意気込む。卒業後のプロ入りを志望するが「このチームで、勝つことに貢献できれば、自ずとプロにつながる。目の前の小さいことからやっていきたい。土台づくりが大事です」と語り、堀井監督が強調してきたチーム方針が浸透している。

 スポーツ推薦入試がない慶大が毎年、強さを維持できている理由は何か。学生たちが率先して考え、動くことができるからだ。選手はもちろんのこと、スタッフ(学生コーチ)、マネジャーと、全部員に自立と自律が共存している。先輩から後輩へ、良き伝統が引き継がれているチームに、死角は見当たらない。

文=岡本朋祐 写真=BBM
週刊ベースボール編集部

週刊ベースボール編集部

週刊ベースボール編集部が今注目の選手、出来事をお届け

関連情報

みんなのコメント

  • 新着順
  • いいね順

新着 野球コラム

アクセス数ランキング

注目数ランキング