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1980松坂世代〜あの夏から25年目の延長戦〜

「僕の分まで投げてほしい」松坂大輔引退後も続く“松坂世代”の物語【1980松坂世代〜あの夏から25年目の延長戦〜】

 

兵庫・小野高、慶大で活躍し、東京六大学リーグ戦では早大・和田毅[ソフトバンク]と真剣勝負を演じた元フジテレビアナウンサーで現スポーツアンカーの田中大貴は、1980年生まれの「松坂世代」の1人。そんな野球人・田中が、同年代の選手たちをプロ野球現場の最前線で取材、至極のエピソードをコラムに。週刊ベースボール本誌から週刊ベースボールONLINEに場所を移し、連載を続けていきます。

ただ一人の現役


昨季限りで現役生活にピリオドを打った松坂


 いよいよ、2022年の球春が到来する。松坂大輔が引退して迎える今年、この球春を現役として迎えた松坂世代はただ一人となった。

「僕の分まで投げてほしい。現役を続けてほしい。そして200勝を達成してほしい」

 できるだけ長く続けてほしい……引退した昨年、松坂大輔が和田毅に寄せた思いはシンプルだった。そして、自らが辿り着きたかった場所、数字を40代の左腕に託した。

 1980年世代は松坂に始まり、松坂に終わると松坂世代の誰もが想像してきた。怪物・松坂大輔で始まり、不死身の松坂大輔でこの世代のエピローグは結ばれると私も予想してきた。けれど、最後に現役として残ったのは福岡ソフトバンクホークスの和田毅だった。

「この数年間、大輔とはいろんな情報交換をしてきたよ。ケガのことも、病院や治療院のことも、精神的なことも。2人の間だけにとどめておきたいこともある。でも、やっぱり彼は素晴らしいよ。いまだに大輔と連絡を取るとき、僕は緊張しているよね」

昨季は18試合に登板して5勝を挙げた和田


 和田毅は常々こう話してきた。言えないこともあると言う。いつか話せたらということもあると言う。数年前、ケガにより投げることさえできなかった和田は引退を考えたときがあった。いや、引退を考えなかった日々は、この数年なかったのかもしれない。でも、耐え抜いた。肩、ヒジ、下半身……。投げるために必要な個所に痛みが走る毎日。少しでも良くなるのであればと全国の治療院を巡る日々。松坂も和田も、そしてベテランと呼ばれるまで長きにわたり、プロで現役を続けてきた松坂世代は活躍の裏側で皆、同じように苦しみや痛みと闘ってきた。

指導者にも多くの松坂世代


現役時代はケガとの闘いが続いた館山


「病院の先生が僕の全身に注射を打ち過ぎて注射を打つ腕が上がったと言われたよ。注射を打つ時間は数十秒……。そんな短い時間しか会わないのに、先生らとこれだけ仲良くなれたのは、それだけ回数を重ねたからだよね(笑)。どれだけ注射を打ちに行ってるんだよ、ってね(笑)」

 こう話してくれたのは神奈川県下で高校時代から松坂と名勝負を繰り広げ、スワローズで活躍してきて館山昌平だ。“医師の腕が上がる”……。確かに和田も同じことを話していた。肩に注射を打ち過ぎて医師の注射テクニックが上がり、手の握力が強くなった、と。想像を絶する治療の数。実はみんな同じような経験をしながら前に進んできた。

 和田は現役続行、松坂は現役引退、そして館山は今季から指導の場所をNPBからBCリーグに移し、福島レッドホープスのコーチ兼営業企画のスタッフとしてチーム運営も学ぶという新たな挑戦を試みる。他の同世代メンバーも新たな一歩を踏み出す。ライオンズやベイスターズで中継ぎとして活躍した長田秀一郎やタイガース、カープなどでマウンドに上がってきた江草仁貴もNPBの現場に復帰し、ともに二軍投手コーチとして若手育成にトライする。

取材者、解説者として


 98年、あの夏から今年で24年の時が経過する。高校球史に残る伝説的な1年から間もなく四半世紀。現役はただ一人。指導者としては現場に多くの松坂世代が残る。“松坂大輔”の背中を追いかけてきた精鋭たちを集団のトップで見ていた松坂。2022年、彼は取材者として、解説者として、現場から離れた一人の人間として、松坂世代の盟友たちの背中を押す存在となる。

「98年の夏……。このストーリーは終わらせたくない。あれからずっと延長戦は続いていると思う。その1イニング1イニングを長く濃いものにしたい」

 こう語ってきた松坂大輔がユニフォームを脱いだ最初の1年。松坂世代への想いが凝縮された1年にしてくれるに違いない。彼がどんな姿で、どんな言葉で世代を未来へと導いてくれるのか……。立場、環境が変わったからこそ楽しみな1年となる。

 あの夏から24年。松坂世代の物語はまだ続く。

文=田中大貴[スポーツアンカー] 写真=BBM
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