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プロ野球回顧録

松井秀喜級の打球音も…20本塁打打ったことがない「意外な打者」は

 

「短距離打者にはなりたくない」


41歳になる今季も阪神でプレーする糸井


 フリー打撃ではスタンド上段に飛び込む大飛球を連発する。身体能力は球界屈指でありながら、シーズン20本塁打を1度も達成していない「意外な打者」がいる。阪神の糸井嘉男だ。

 父はトライアスロンの元選手で、母はバレーボールの元国体選手。両親の遺伝子を受け継いだ恵まれた身体能力で「超人」と形容される糸井だが、順風満帆な野球人生ではない。投手で鍛錬を積んだ近大では3年春までリーグ出場なし。3年秋にデビュー登板を飾り、4年春にエースとして2度の完封勝利を含む5連勝で一気に株を上げ、ドラフト候補で注目を浴びる。2003年に自由獲得枠で日本ハムに投手として入団したがプロの世界は厳しい。制球難で結果を残せず、06年に野手転向する。

日本ハムで06年、野手に転向してその後、主軸としてプレー


 この決断が野球人生を大きく変える。09年からNPB史上初の6年連続「打率3割、20盗塁、ゴールデン・グラブ賞獲得」の偉業を達成。12年オフにオリックスに電撃トレードされたが、新天地でも主力としてチームを牽引した。14年に打率.331で首位打者、16年に53盗塁でNPB史上最高齢の35歳で盗塁王に輝く。同年オフに阪神にFA移籍。甲子園は右翼から左翼に浜風が吹くため、右翼方向の打球が押し戻される。左打者は本塁打が出にくい球場だ。

オリックスでも首位打者を獲得するなど打線を引っ張った


 阪神に移籍が決まった糸井は週刊ベースボールのインタビューで、「基本ホームランを狙っているんですが。(浜風は)結構邪魔な存在で、もう一度ラッキーゾーンを作ってほしいくらいですよ(笑)。でも、自分の基本の打撃フォームを壊したくないですし、無理に流し打ちにかかるということはしたくないんですよね」と強調しながらも、「実際にそこまでホームランを打っているわけ(最多は14年の19本)ではないので、そんな目標を言っていいわけちゃうのでね……でも、打ちたいという気持ちは持っているんです」と告白。「長距離砲とちゃうよ、僕(苦笑)。でも短距離打者にはなりたくないので、常に大きな打球を打ちたいという気持ちがあるのは、当然のこととしてあるんですよ」と本塁打への思いを語っている。

 移籍初年度の17年は打率.290、17本塁打、62打点、21盗塁。翌18年も打率.308、16本塁打、68打点、22盗塁をマークしている。十分に及第点をつけられる数字だが、16〜18年に監督を務めた野球評論家の金本知憲氏は「眠っているスラッガーの資質」を口にしている。

金本前監督からの金言


 今年1月に配信されたABCテレビ公式のYouTubeチャンネル『虎バン 阪神タイガース応援チャンネル』に出演した際、「糸井は不思議な打者。阪神にFAで来たときにフリー打撃で当たりの強さ、音は負けたなと。ちょっと違うぞ、こいつはみたいな。松井秀喜以来のインパクトですよ。外国人を除いたら松井と双璧だなと。自分の現役時代と比べて勝てないと思いました。明らかに嘉男の方が上ですから」と称賛。

 チーム最年長の糸井は今年で41歳。金本氏は41歳シーズンで全144試合出場し、打率.261、21本塁打、91打点をマークしているが、「嘉男ならいけるはずなんですよ。スイングする力、技術は最高。もっと配球を読みながら絞って打てば(自身の41歳の成績を)速攻で抜けますよ」、「(初球から)2ストライクに追い込まれたときの打撃をしている。若いカウントで直球に絞って打てばいい。それをやったら30、40本塁打打てる」と太鼓判を押している。

 ゲスト出演した糸井は姿勢を正して聞いていたが、その金言は大きな励みになっただろう。昨年は佐藤輝明の加入もあり、代打での出場が多かったがまだまだ若い選手には負けられない。眠っている能力が引き出されれば、外野のレギュラー奪取も十分に可能性がある。

写真=BBM
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