週刊ベースボールONLINE

川口和久WEBコラム

気になる男、崖っぷちの井納翔一の復活はなるか/川口和久WEBコラム

 

チャンスをつかむための準備を



 ピッチャーは劣勢からでも1球で局面を変えることができる。
 もっと言えば、人生を変えることができたりする。

 あれは1球じゃなかったけど、西武松坂大輔オリックスイチローを封じ込め、「自信が確信に変わった」と言ったことがある。逆に、昔、巨人の江川卓さんがカープの小早川毅彦にホームランを打たれて号泣し、引退を決意したことがあった。
 誰もがそうとは言えないけど、投手という人種は、そのくらい繊細であり、プライドが大切な生き物でもある。たぶん、野手から見たら面倒臭いだろうけど、プロのマウンドで投げるというのは、そのくらいギリギリの勝負だ。

 そんな1球を“待っている”選手は覚醒前の若手だけではない。巨人移籍2年目の井納翔一も、その一人だ。
 FA選手の勝負は2年目。1年目はチャンスをもらい、多少、結果が出なくても使ってもらえるが、2年目はもうお客様じゃない。給料が高い分、ほかの選手よりシビアに結果を問われる。
 井納はベイスターズから昨年巨人に移籍したが、1年目、本当にいいところなく、完全に崖っぷちに追い込まれた。今年もダメなら存在感がゼロに近くなってしまうだろう。

 獲得時、原辰徳監督はタフさを買って先発で起用したいと言っていた。もともとポテンシャルは高い投手だと思うが、ベイスターズ時代から安定感がなく、負けも多いタイプだった。原監督も本音では勝ち負け五分でもいいくらいだったと思うが、0勝1敗は完全に誤算だった。
 それでなくとも原監督は見切りが早く、移籍選手にとっては簡単な監督ではない。

 偉そうに書いているが、俺自身がそうだった。カープから95年巨人に移籍したが、まったくダメ。このままで終わるのかという恐怖心、獲ってくれた長嶋茂雄監督、球団、ファンへの罪悪感があった。 
 翌96年二軍に落ちたときは、これ以上いても迷惑を掛けるだけだ、引退しようと思った。
 でも、そこで俺は宮田征典コーチとの出会いがあった。「リリーフで勝負してみないか」と言われ、ピッチングを一から組み立て直し、130キロ台だった球速が140キロ台後半まで戻り、後半だけだったが、チームに貢献でき、胴上げ投手にもしてもらった。
 振り返ると、あのときも1球、1球だった。ああ、バッターが差し込まれた、速いなと驚いたような顔をした、俺の球は戻ってきたんだ……。そんな繰り返しでゼロに近づいていた自信がよみがえり、マウンドで戦う勇気が戻ってきた。
 同時に思ったのが準備だ。一軍に戻ってからも、毎回ラストチャンスのようなものだったが、めぐってきたとき、それをしっかりつかみ取れるだけの準備が、あのときはできていた。

 井納もこの春のキャンプでしっかり準備し、かつアピールしなきゃいけないと思っていたはずだ。残念ながらコロナで出鼻をくじかれたが、体調を万全にし、開幕までに納得できる準備とアピールをしてほしいと思う。

写真=BBM
週刊ベースボール編集部

週刊ベースボール編集部

週刊ベースボール編集部が今注目の選手、出来事をお届け

関連情報

みんなのコメント

  • 新着順
  • いいね順

新着 野球コラム

アクセス数ランキング

注目数ランキング