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【MLB】「ベンチ入り投手の人数を制限すれば…」ベテラン記者の提案、MLBの野球を面白くするには

 

1985年のワールド・シリーズはMVPになったロイヤルズのセイバーヘイゲンが2試合完投した。現在では中継ぎ投手が早い回から投げるなど分業制に拍車がかかっている。これが人気低迷の要因だとアメリカのベテラン記者は指摘している


 スポーツイラストレイテッド誌のトム・ベデューチ記者はメジャー・リーグ取材歴40年の大ベテラン。1993年から同誌に移籍し、看板記者として健筆をふるってきた。昨秋は大谷翔平が表紙の号で特集記事を書いたが、2007年に松坂大輔が表紙を飾ったときも執筆。アメリカを代表する野球記者の一人だ。

 彼と昨年ヒューストンで話したとき、今の野球はブルペンが強くなり過ぎているため、ベンチ入りの投手の人数を制限すれば、野球がもっと面白くなるのではと私見を口にしていた。

 21年のワールド・シリーズ、アストロズは6試合でのべ37人、ブレーブスは29人の投手を使った。先発投手が早めに交代し、ブルペン投手が次々に出てきて、短いイニングを目いっぱい投げて三振を奪う。アストロズの投手は52回で61奪三振、ブレーブスの投手は53回で55奪三振だった。

「私が子どものころは速い球を投げる能力は天性のものと信じられていた。しかし最近では効果的なトレーニングを積み、良いコーチに就くことで、教わって速い球を投げられるケースが増えている。おかげで昔はメジャーでも1チームに良くて2、3人しか優秀なブルペン投手がいなかったが、今は5、6人も備えている。監督の選択肢は豊富で、相手打線を三振で沈黙させる」

 ベデューチがまだ若手記者だった85年のワールド・シリーズはロイヤルズ対カージナルス。優勝したロイヤルズは7合でのべ13人の投手が登板、MVPに輝いた右腕ブレット・セイバーヘイゲンは2試合完投だった。長いイニングを投げるには打たせて取る投球術が必要で、セイバーヘイゲンは18回で三振は10個、11安打を許したが、失点は1に抑えている。ロイヤルズの投手陣全体を見ても62回で42奪三振だった。

「ベンチ入りの投手の数を少なくすれば、一人の投手がより多くの打者に投げないといけない。そうなると今のように目いっぱい投げて三振を奪うのではなく打たせて取ることを考えざるを得ない。打球が増え、走って、守って、動きの多い野球になる」

 ちなみに85年と21年のちょうど真ん中、03年のワールド・シリーズは、松井秀喜のヤンキースがマーリンズと対戦。6試合のシリーズで、優勝したマーリンズはのべ21人の投手を起用、56回で49奪三振。ヤンキースは17人の投手で、55回で48奪三振だった。MLBでは長い年月を経て、勝つためにブルペンを強化し、今のように分業化を進めてきた経緯がある。

 しかしながら近年は明らかに行き過ぎ。前回も書いたが、ハイパースぺシャリゼーション(過度な分業化)が人気面での足かせになっている。次々に交代する野球では、ファンは特定の選手に感情移入しにくい。「良くないことは、近年はリトル・リーグまで分業化が進んでいること。昔は肩の強いトップアスリートはエースで中核打者だったのに、親御さんが成功へのプレッシャーから10歳前後で投手に専念させたりする。あの年ごろならいろんなポジションでゲームを楽しみ野球という球技を学ぶ方が重要なのだが……」。一考の価値がある提案だと思う。

文=奥田秀樹 写真=Getty Images
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