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川口和久WEBコラム

あんなすごい球を投げる男が、なぜ…阪神・藤浪晋太郎は再生できるか/川口和久WEBコラム

 

ほんともったいない



 160キロ台を連発した令和の完全試合男・佐々木朗希(ロッテ)は別格だが、先発で150キロ台後半を出すこと自体、誰にでもできるわけじゃない。

 しかし、それだけのポテンシャルを持った男が簡単にバットにボールを当てられ、制球を乱し、早々にマウンドから降りてしまう。

 もったいない。ほんと、もったいない……。

 この出だしで誰の話かすぐ分かるだろう。

 阪神・藤浪晋太郎。彼を見ているプロ野球のピッチャー出身のOBは、みんなそう思っているんじゃないかな。あんなすごい球を投げる男が、なぜって。

 4月8日、広島大瀬良大地と投げ合った甲子園の試合もそうだ。藤浪の最速は156キロくらいだったと思うが、いつものように制球難に苦しみ、途中降板。矢野燿大監督から「次(の登板)は分からない」と突き放されてしまった。

 対して大瀬良も決してよかったわけじゃない。6回3失点で降板したが、見ていて藤浪が勉強してほしいと思うことがたくさんあった。

 あの日の大瀬良は最速が147、8キロかな。藤浪に比べ、下手をしたら10キロくらい遅い。しかし、打者が打ちづらそうにしていた真っすぐは大瀬良の球だった。

 一つは緩急だ。スライダー、ツーシームを使い、ストレートは時に見せ球としていた。

 緩急と言うと速い球と緩い球の球速差と思うかもしれないけど、それがすべてというわけじゃない。

 ピッチングはいかにバッターのタイミングを外すか。そのためには同じフォームで真っすぐと変化球を投げ分けたり、できるだけボールの出どころが分からないフォームで投げることがポイントになる。

 大瀬良はそれができる。だからエースと呼ばれる投手になった。

一からフォームを組み立て直さなければ


 対して藤浪は全球力みまくってバッターの待っているタイミングで投げている。一生懸命さは伝わるが、それだけじゃ勝てない。

 ボクシングのパンチがそうだけど、目いっぱいの単調なパンチはいくら強烈でもよけられる(と思う)が、予備動作が小さな切れのいいパンチやジャブやフェイントを交えたりすることで当たる。

 メンタル的な問題を言う人も多い。阪神という人気球団だからこその重圧、マジメで強い責任感から自分を追い込んでいるところは確かにあると思う。

 ただ、見ていると、技術的な問題もある。

 投手は1回、上半身を脱力して腕をトップに持って行き、そこから背筋を使って、リリースの瞬間に力をこめるのが理想だが、藤浪はボールをトップに持って行くところですでに力んでいる。

 もう一つは左足の使い方だ。大瀬良のように体の開きを抑える動きになっていない。

 なかなか藤浪が変わらないのは150キロ台後半の球があるからでもある。彼のポテンシャルなら150キロは簡単に出る。それでも打たれる。だから彼はさらに速い球を目指して、さらに力みかえって投げ、フォームを崩し、制球が乱れる。

 力んでも140キロ台しか出なければ工夫せざるを得ないからね。

 藤浪についてはコラムで何度も書いたし、いろいろな解説者がいろいろなことを言っているが、ずっと同じことが続いている。

 この悪循環はもはや自分だけでは解決しないだろう。コーチが1カ月でも2カ月でもつきっきりで、一からフォームを組み立て直さないと難しいんじゃないかな。

写真=BBM
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