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外野からの返球が走者の背中に当たり生還。防げないミスだった?【前編】/元西武・平野謙に聞く

 

読者からの質問にプロフェッショナルが答える「ベースボールゼミナール」。今回は外野守備編。回答者はゴールデン・グラブ賞に9度輝いた名手、元西武ほかの平野謙氏だ。

Q.2021年日本シリーズ第6戦(ほっと神戸)でヤクルトのレフト・青木宣親が投げたバックホームがオリックスの走者・若月健矢の背中に当たり、ホームに生還したシーンがありました。あれは防げないミスだったのでしょうか。(東京都・匿名希望・40歳)


送球が若月の背中に当たり、ホームはセーフになった


A.返球はシュート回転して当たり前。それを計算して投げてください

 だいぶ前の話になりましたね。あまり質問を寝かせてちゃダメですよ。こっちも状況を忘れちゃうから(笑)。

 資料を見ながら思い出してみましょう。日本一に王手をかけたヤクルトが1対0でリードしていた5回裏のシーンですね。二死二塁でオリックス福田周平が詰まりながらもレフト前へ運んだ。青木は思い切った前進守備をしていましたが、オリックスのサードコーチはちゅうちょせず腕を回した。打球が弱かったこともあって紙一重のタイミングだったと思いますが、青木の送球がシュート回転して三本間をホームに向かう走者の背中に当たってはずみ、セーフになってしまいました。

 これで試合は1対1の振り出しに戻りました。そのまま延長戦に突入し、最終的には延長12回表にヤクルトが1点を取って2対1で勝利した試合でしたが、もしかしたらオリックス流れを持っていかれかねないプレーでもありました。

 質問の「防げないミスだったか?」と言われると、「そうです」とも「そうじゃない」とも言えますね。少し状況を整理してみましょう。

 走者が三塁からホームへ向かう際、ファーストやセカンドから勢いよく走って来た場合、必ずファウルゾーンにふくらみます。その中でも大きく分けると、スピードを落とさないことを優先し、サードベースから大きくふくらんで、ゆるやかな弧を描くようにベースに向かっていくタイプと、できるだけ最短距離を走るため、早く鋭くラインに入り真っすぐ向かっていくタイプがいます。あのときの若月は小さく曲がって早めに真っすぐのラインに入っていたように思います。

 レフトは例えば三塁線で捕球した場合、送球のラインに走者が入ってしまうこともありますが、あのときは三遊間で、そうではなかった。青木も投げるとき、それほど走者は気にしなかったと思います。

 ただ、ここで頭に置いておかなきゃいけないのがシュート回転です。人間の投げる球は、ほぼシュート回転をします。バッテリー間くらいの距離ではさほど大きな変化はしませんが、外野からのホームへの返球のように長い距離の場合、角度の問題で、最初は大したことがなくても到達点では大きな誤差になることがあります。

 ただし、自分の球の質さえ分かっていれば、そう気にすることじゃないと思います。要は、どのくらいの力で投げたらどう変化するか分かっていれば、最初からそれを計算して投げればいいだけです。それは青木も十分分かっていたはずです。ただ、あのときの青木はおそらく自分がイメージするより大きく変化してしまったのだと思います。では、なぜそうなったのか。次回はその理由とそれをどう防ぐか考えてみましょうか。

<「後編」へ続く>

●平野謙(ひらの・けん)
1955年6月20日生まれ。愛知県出身。犬山高から名商大を経て78年ドラフト外で中日入団。88年に西武、94年にロッテに移籍し、96年現役引退。現役生活19年の通算成績は1683試合出場、打率.273、53本塁打、479打点、230盗塁。

『週刊ベースボール』2022年5月16日号(5月2日発売)より

写真=BBM
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