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ロッテの高卒1年目捕手・松川虎生はどこが一番すごいのでしょうか?【後編】/元中日・中尾孝義に聞く

 

読者からの質問にプロフェッショナルが答える「ベースボールゼミナール」。今回は捕手編。回答者は現役時代に強肩強打を誇り1982年の中日優勝時にはMVPに輝いた、元中日ほかの中尾孝義氏だ。

Q.ロッテの松川虎生捕手が佐々木朗希投手の完全試合のキャッチャーを務め話題になっています。どこが一番すごいのでしょうか。僕も高校でキャッチャーをしているので参考にすべきことがあれば教えてください。(兵庫県・匿名希望・18歳)


ロッテのドラフト1位ルーキー捕手の松川


A.変化球の使い方がうまい。1打席だけでなく、先を読んだリードをします

 前編は4月10日、佐々木朗希の完全試合(対オリックス。ZOZOマリン)でキャッチャーを務めた高卒新人・松川虎生の素晴らしさをキャッチング中心について触れてみましたが、今回はリードの話をしましょう。

 彼だけの考えではなくコーチや佐々木朗の考えもあったと思いますが、あのときのすごさは、しっかり先を読んでいるところです。もちろん、アドバンテージとして、もともとオリックスのバッターが松川のリード傾向はまだ把握しきっていなかったことはあると思います。佐々木朗との対戦も多かったわけではないので、オリックスのバッターは戸惑っているように見えました。

 私の説明は、あくまで佐々木朗と組んだ松川の話になりますが、特徴としては変化球の使い方がうまいと思いました。例えば吉田正尚の3打席を振り返ってみましょう。完全試合うんぬんではなく、あの日、ロッテバッテリーが最大の警戒をした選手であることは間違いないと思います。

 まず第1打席はすべて外の低めに真っすぐ、同じく外低めへのフォーク、フォークで空振り三振。絶対に打たれたくない、というガチガチのリードでしょう。続く2打席目が僕はうまいなと思いました。まず初球は真ん中付近の甘いカーブ、それで2球目が内角低めのヒザ元にくるカーブ。以前、話しましたが、初球にゆるい変化球でストライクが取れると、そのあとがすごく楽になります。あのときは1打席目で吉田正に外の真っすぐ、フォークの意識づけをしたところで、あのカーブ。多少甘くなってもまず手は出さないという計算だと思います。

3三振に終わったオリックスの吉田正


 吉田正は次に真っすぐを待ったと思いますが、もう1球、今度はヒザ元への厳しめのカーブで空振りさせ、2ストライクです。吉田正レベルなら、逆で1球目が厳しいコース、2球目が甘いコースなら打たれていたと思います。佐々木朗がどこまでカーブを制球できるのかは、この試合だけでは分かりませんでしたが、狙った2球ならすごいと思います。それからフォーク、フォークで最後は空振り三振でした。

 最後の打席は真っすぐで2−1となってから甘めのコースのフォークの空振りで2−2、おそらくもう1球、フォークか外低めと思ったところで、内寄りに163キロのストレートで見逃し三振にした。全打席、攻め方を変えながら、しかも前の打席から布石を打っているかのようなつながりがありました。

 佐々木朗もあまりクビを振らなかったし、呼吸も合っていたようですね。インタビューなどを見ていても、落ち着いて18歳らしからぬ選手です。ただ、まだ一回り、二回りの対戦です。プロの世界ではピッチャーだけでなく、キャッチャーのリードの傾向の研究もされます。その上でどんなリードをするのか見たいですね。

<「完」>

●中尾孝義(なかお・たかよし)
1956年2月16日生まれ。兵庫出身。滝川高から専大、プリンスホテルを経て81年ドラフト1位で中日入団。89年に巨人、92年に西武に移籍し、93年現役引退。現役生活13年の通算成績は980試合出場、打率.263、109本塁打、335打点、45盗塁

『週刊ベースボール』2022年6月13日号(6月1日発売)より

写真=BBM
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