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【MLB】シーズン100盗塁、スピードで盛り上がる野球は復活するのか

 

ピッチクロックとけん制の回数を制限することで、リッキー・ヘンダーソンのように年間100盗塁以上を記録した80年代のころのようなスピード野球が復活するだろうか


 1980年代、リッキー・ヘンダーソンやビンス・コールマンが盗塁で野球を盛り上げた。メジャー・リーグ史上最高のリードオフマンと呼ばれるヘンダーソンはアスレチックスで80年に100盗塁を達成した後、82年はルー・ブロックの記録を破る130個、83年は108個と3度3ケタ盗塁を達成した。

 コールマンもカージナルスで85年に110個、86年に107個、87年は109個と3年連続3ケタ盗塁をマーク。2人が塁に出れば、スタンドの大観衆は投手、捕手との駆け引きに見入った。走るのは分かっている。いったいいつスタートを切るのか。スタートを切り、加速し、野手のタッチより一瞬早くベースに滑り込む。球場全体が熱くなった。

 しかしながら88年以降は誰も100盗塁を達成していない。ケニー・ロフトン、ジャコビー・エルズベリーなど盗塁で魅せた選手はいたが、ヘンダーソンやコールマンのように大々的に騒がれることはなかった。そして2018年以降は誰もシーズン50盗塁以上をマークしておらず、注目度は低い。

 その流れが今後変わるかもしれない。このコラムでも何度もお伝えしてきたが、今マイナー・リーグでピッチクロックの導入と共にルールで投手がプレートを外したり、けん制球を投げる回数を制限している。理由は回数制限も併用しないと、試合時間短縮につながらないからだ。

 15年のマイナーで20秒のピッチクロックを導入したとき、1年目は2A で平均10 分、3Aで平均12分と短縮できたのだが、投手たちはプレートを外せば時計はセットし直されるとすぐに気付いた。2年目以降、試合時間は再び長くなり、18年にピッチクロックを15秒とさらに短くしたが、効果はなかった。

 そこで昨年、1Aのカリフォルニア・リーグで、走者を背負った状況では、一つの打席で、投手がけん制したりプレートを外せるのは2度まで、3度目は走者をアウトにできなければボークになるとした。これが効果的で今年は全てのマイナー・リーグでこのルールを試している。

 ピッチクロックは走者なしが14秒で、走者がいれば18秒(3Aは19秒)。結果、試合時間は21年の平均3時間から2時間35分と25分も短くなった。同時に盗塁数も増えた。19年、1試合当たり盗塁を試みた回数は2.23回で成功率は68.2パーセントだったが、今年は2.85回で、成功率77.6パーセントである。走者は仕掛けやすい。大きなリードでけん制を誘い、2度とも刺されなければ、3度目は投手がけん制を躊躇(ちゅうちょ)する一方で、走者は積極的に行ける。

 以前なら、投手は長くボールを持って、リードした走者の足を凍り付かせることもできたが、それもできない。MLBで盗塁が減ったのはアナリティックの研究で、75パーセント以上の成功率でないと仕掛けないほうが良いとなったからだが、このルールなら成功率の上昇を見込める。

 以前のように走者は投手のクセを熱心に読むようになり、駆引きが盛んになる。MLBは試合時間短縮を最重要課題の一つにしているため、早ければ23年からピッチクロック導入の可能性がある。そしてけん制球の回数制限も付いてくるのである。

文=奥田秀樹 写真=Getty Images
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