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3年ぶりに鳴り響いた「美爆音」。ブラバン応援の後押しで勝ち越した習志野が初戦突破

 

「待った」をかけた顧問


習志野高校吹奏楽部の名物応援歌は「レッツゴー習志野」。3年ぶりに夏の千葉県大会で披露された


 やはり「魔曲」だった。

 千葉県大会2回戦(7月12日)。Bシード・習志野高は市川高に苦しみながらも3対2で制して、3回戦進出を決めた。

 習志野高は4回裏に2点を先制。先発の右腕・小城知(2年)が7回無失点と粘り、8回表からは背番号1を着ける右腕・関順一郎(3年)が救援する。逃げ切りを図りたいところだったがこの回、粘る市川高に同点に追いつかれる。

 嫌な流れだった。8回裏。習志野高の三塁側応援席はイニングの頭から、名物応援歌「レッツゴー習志野」の演奏を検討していた。吹奏楽部の生徒(指揮者)から相談があったが、顧問の海老澤博先生は「待った」をかけた。

 それは、なぜか。

「ミスも重なりましたが、勝ち越しのピンチをしのいだ。ここはまず、落ち着こう、と。平常心に戻ることが先決であると考えました」

 ブラバン応援も「生もの」である。つまり、ここで「切り札」を選択してしまえば、考え方によっては、相手に「習志野は焦っている」とスキを見せてしまうかもしれない。だからこそ、8回裏は通常の演奏からスタートした。

 先頭打者が二塁打で出塁。もう、遠慮することはない。基本は三塁進塁時に合図を送るが、この得点圏で「レッツゴー習志野」が始まった。平日にも関わらず、習志野高ファンが埋めたスタンドはネット裏から三塁へかけて「パン! パン! パパパン! パパパン!」と一斉に手拍子。一気に習志野ワールドが展開され、好リードを見せていた捕手・成嶋来晟(3年)の適時打で勝ち越しに成功した。

「ただ、演奏するだけでは意味がない」


 今夏は3年ぶりのブラバン応援復活である。名門・習志野高吹奏楽部は186人の大所帯。3年生は2020年4月入学であり、野球応援は全部員、今回が初めての経験である。演奏ができるのは50人以内という規定があり、イニング間に交代し、伝統の全力演奏を展開した。試合を想定して練習を積んできたとはいえ、実戦はやはり別もの。この日は海老澤先生ら吹奏楽部の顧問が生徒に細かく指導しながら、試合を進めていた。

 3年ぶりの「美爆音」。海老澤先生は言う。

「ただ、演奏するだけでは意味がありません。野球には『流れ』があります。主役は、あくまでもグラウンドでプレーする野球部です。私たちは野球部をバックアップすることが使命。それを、忘れてはなりません」

最初で最後の夏


 186人を束ねる部長の七海歩夢(3年)は「野球応援をやるために、習高に入学しました。最初で最後の夏。こうした環境を整えていただき感謝したいです」と語った。

「美爆音」は届いた。母校・習志野高を率いる小林徹監督が「久々に、後押しされました」とマスク越しに笑顔を見せれば、決勝打の成嶋は「自分たちがプレーしやすい環境をつくってくれる。球場が揺れる感覚があって、感動しました」とホッとした表情を見せた。

 傍から見れば「満点」の演奏に見えたが、全国大会で金賞常連の名門は、ここで満足しない。七海部長は「音が合っていなかった。指揮者をしっかり見ないといけない。50人でも、まだまだ工夫できる。実戦における野球の流れを勉強する、貴重な機会になりました。この反省を次に生かせるのも、野球部が勝ってくれたおかげです。次戦に向け、しっかり準備をしていきたいと思います」と気を引き締めた。

 試合時間2時間39分。高校野球はグラウンドだけがメーンステージではない。スタンドの学校応援も「魔曲」を通じた教育現場だった。

文=岡本朋祐 写真=矢野寿明
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