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ENEOS復帰登板で「チーム最速」の田澤純一。社会人野球をレベルアップさせる「伝道師」の役割も期待

 

約2か月半ぶりの実戦


14年ぶりに古巣・ENEOSに復帰した田澤。明るい表情が印象的である


 貫録の9球だった。

 9月7日、社会人野球・ENEOSに14年ぶりに復帰した田澤純一が11日、オールフロンティアとのオープン戦に登板。初の対外試合で3対0とリードした7回表から三番手として救援。1イニングを1安打無失点に抑えた。

 ストライク先行で、自らリズムを作っていくのが田澤の持ち味。右飛、一ゴロの後、二死から初球のスプリットを右前に運ばれた。「甘く入ってしまった」と反省した直後、次打者を右飛に仕留めた。この日、最速の146キロを4球投じ、約2カ月半ぶりの実戦とは思えない完成度の高いピッチングを見せた。

「146キロ? スピードは求めていないので……。泥臭くアウトを取る。ただ、スピードが出た事実については、ポジティブにとらえたいと思います」

 この日はドラフト候補の右腕・関根智輝(慶大)、左腕・加藤三範(筑波大)も登板したが、田澤の146キロが「チーム最速」だった。

 この事実を知らされると、田澤は冗談交じりに「何やってんだ、アイツら(苦笑)。プロを目指しているのなら違うだろ(笑)」と、報道陣の爆笑を誘った。6月末にメキシコから帰国後、古巣・ENEOSで自主トレを積んでいたが、正式にチーム加入となれば、話は別。とはいえ、短期間でチームに馴染んでいる様子が、受け答えからも明らかだった。

「将来の道」を水面下で用意


 田澤は横浜商大高から新日本石油ENEOS(当時)に入社した4年目の2008年、都市対抗制覇に貢献し、橋戸賞を受賞した。同年、MLBに挑戦し、13年にはレッドソックスでワールドチャンピオンに輝いた。マーリンズ、エンゼルスと18年までプレー(21勝26敗4セーブ、89ホールド、防御率4.12)し、20年はBCL/武蔵ヒートベアーズに在籍し、NPB入りを目指したが、同年のドラフトでは指名漏れ。21年は味全(台湾プロ野球)、22年はドゥランゴ・ジェネラルズ(メキシカンリーグ)で投げていた。

 ENEOSは08年、レッドソックスへの入団が決まった時点から、同社の大功労者である田澤をバックアップし「将来の道」を、水面下で用意していた。19年12月に2度目の指揮を執ることになったENEOS・大久保秀昭監督は、ここ数年も田澤にオファーを出し、このタイミングでの復帰となった。

 あくまでも選手契約ではあるが、大久保監督はこれまでの貴重な経験を、伝道師として社会人野球界に落とし込んでほしいと願う。

「自チームだけではなくて、対戦チームでも聞きたいことがあれば、活用していただきたいと思っています。ウチが囲うという考えは毛頭にありません。来る者拒まず。社会人野球界全体がプラスになってほしいです」

 一方で、男の花道を飾ってほしいという。

「野球人としての(現役の)時間も長くはないでしょうから、残りの持っていき方、納得する形で、と思っていました。仮に(別のチームから)このままオファーなく、寂しい形でユニフォームを脱ぐことになったらかわいそう……。こちらからというよりも、どのタイミングで(指導者に)シフトチェンジするか、そこは田澤本人の判断に任せています」

「一生懸命やるだけですから」


復帰後初の対外試合となったオールフロンティアとのオープン戦で1回無失点に抑えた


 大久保監督は復帰後初登板の「9球」について、こう評価した。

「衰えは感じない。リズムが良かった。あれだけ場数を踏んでいる田澤でも、今日は良い緊張感があったみたいです」

 その「緊張感」について問うと、田澤からはプロフェッショナルの答えが返ってきた。

「良い緊張感がなくなったら、辞めるべきかな、と。MLB、海外、独立リーグ、どこへ行っても、自分のやるべきことは変わりません。一生懸命やるだけですから。プロとアマで違うのかもしれませんが、しっかり準備して、しっかり投げて、しっかり勝つ。自分ができるのは、それだけです」

 実は大久保監督が着目していたのは、ボール以上に、投手としての動きだった。

「一塁ゴロでファーストのベースカバーに、しっかり行っていた。瞬間的な投手としての仕事を素早く反応できている。150キロも出るんじゃないですか? 楽しみにしています」

 ENEOSは今夏の都市対抗で9年ぶりの優勝。10月30日に開幕する社会人日本選手権では、夏秋連覇を狙っている。十分な戦力として、百戦錬磨の36歳が活躍する場は、まだまだあるはずだ。

文=岡本朋祐 写真=桜井ひとし
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