「大きな山を、乗り越えた」
一関学院高との準々決勝[9月21日]。2対2で迎えた8回裏、花巻東高は主将・佐々木が勝ち越しのホームを踏んだ
激闘を終えた花巻東高・佐々木洋監督はホッとした表情で言った。
「大きな山を、乗り越えた」
無理もない。2回戦に進出した今夏の甲子園出場経験者が多く残る一関学院高との岩手県大会準々決勝(9月21日)は、負ければ事実上、来春のセンバツ出場が絶望的。勝てば準決勝進出。仮に4強で敗退しても、3位決定戦で勝利すれば東北大会進出への道が残る。つまり、この日は絶対に落とせない試合であった。
3回までに2対0。一関学院高のサブマリン・小野涼介(2年)を攻略して、序盤は試合を優位に進めた。ところが中盤以降、小野の変則投法を打ちあぐねる。すると、流れは一関学院高へ。7回表に1点を返され、8回表に同点に追いつかれた。なおも、二死二、三塁のピンチだったが、ここを何とかしのいだ。
勝ち越しを許さない。となれば、流れは一転して花巻東高へ。8回裏先頭の三番で主将・
佐々木麟太郎(2年)が「何が何でも出塁して、チームに勢いをつけようと」と、初球を左前へ運んだ。3回の適時左二塁打、6回の中前打に続き、この日3安打目である。続く
千葉柚樹(2年)の三ゴロを二塁へ悪送球。ボールが転々とするのを見逃さない佐々木は、三塁へ進塁した。続く中嶋禅京(2年)の中前適時打で、佐々木は勝ち越しのホームを踏んだ。その後も連打で2点、さらにバッテリーミスで加点して一挙4得点を奪っている。
花巻東高は9回表を三者凡退に抑え、6対2。2時間17分の白熱したゲームを制した。
「組織力」「声」「対応力」
なぜ、花巻東高は大一番を制することができたのか。4つの理由を主将・佐々木が明かす。
まずは「組織力」。
「全員で意識高く、最後までやり続ける。(打線では)つなぐこと。堅い守りで、攻撃にリズムを与えていく。しびれる展開になることは、分かっていました。(勝負の明暗が)どちらに転ぶかは分かりませんでしたが、最後モノにできたのは、個人というよりもチームとして統一して、しっかり徹底して、気持ちをぶつけることができたからだと思います」
次に「声」。
佐々木は今夏の岩手大会準決勝(対盛岡中央高)敗退後、主将に就任した。常に心がけているのは、チームを鼓舞すること。チームリーダーの真摯な姿勢が選手全員に伝わった。
「声だけは止めないで、少しでも皆に間(ま)を取ってくれれば。声はキャプテンの責任。1年から使ってもらった分、声で皆をリードしていきたい」
3つ目は「対応力」。
すでに、高校通算87本塁打。常に周囲が佐々木に期待するのは言うまでもなく、サク越え。しかし、変則ピッチャーが相手の準々決勝は、自身のスタイルをあえて封印していた。
「自分の武器はありますが、その中でも自分の役割がある。長打を狙うことなく、しっかり強い打球を打つ。チーム状況、相手を見ながら、使い分けるバッターになりたいな、と。バッターでオールラウンダーを目指しながら、しっかり1打席と向き合っていきたいです」
先輩から継承した力
最後に「継承力」。
花巻東高は昨秋の東北大会を制し、明治神宮大会4強。今春のセンバツでは市和歌山高に1回戦で敗退した。2季連続出場を狙った今夏だったが、先述のように、プロ注目右腕・
齋藤響介(3年)を擁す盛岡中央高に敗退した。先輩たちの無念を、後輩たちは背負う。
「自分は実際に先輩たちのプレーを見てきましたし、今、戦っているメンバーもスタンドから刺激をもらった。しっかりと勝つことだけを考えて、先を見ずにやっていく」
目指すは来春、2年連続でのセンバツ出場。花巻東高には「岩手から日本一」という、代々の先輩から受け継がれてきたモットーがある。とはいえ、まずは足元を見つめる。9月24日に予定される準決勝の相手は盛岡大付高。対戦校を見るよりも、花巻東高の野球を展開していく。主将・佐々木が先頭を走り続ける限り、そのポリシーが揺らぐことはない。
文=岡本朋祐 写真=井沢雄一郎