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高校では公式戦登板なし。23年ドラフト候補に浮上した「大器晩成」平成国際大155キロ右腕・冨士隼人

 

高校時代の序列は投手8番目


平成国際大の155キロ右腕・冨士は急成長中であり、2023年の学生ラストイヤーが楽しみな存在だ。背番号「38」には特別な意味があるという


 明らかな「大器晩成型」である。

 平成国際大の右腕・冨士隼斗(3年・大宮東高)が一躍、脚光を浴びたのは10月1日、関甲新学生リーグの関東学園大戦だ。

 打者29人に対して17奪三振、許した走者は2四球のみで、ノーヒットノーラン(6対0)を遂げた。

「初回から2ランで援護してくれた宮平陸(3年・宜野湾高)をはじめとする打線、難しいバウンドを体で止めてくれたキャッチャー・平石陸(3年・大阪桐蔭高)、バックで守ってくれた野手、支えてくれた控え部員、チームメートの皆のおかげです。一球一球の積み重ねだと思います。感謝しています」

 大宮東高では公式戦での登板なし。県4強に進出した3年夏は背番号19を着けるも「野手兼任でもあったんですが、メンバーで投げられる投手は8人。自分の序列的には8番目だったと思います」と振り返る。最速は130キロ中盤。制球が安定せず、練習試合でも救援で短いイニングを投げるのがやっとだった。

「高校では力を発揮できず、大学で成長したい」と、3年夏の県大会後に平成国際大のセレクションを受け、自己最速138キロをマーク。「球質が良い。体・技・心を鍛えていけば勝負できる」と大島義晴監督の目に留まり、入学が決まった。高校時代の実績が乏しく、成功体験もなかったため、当初は気後れする場面も多かったという。近道はない。課題を一つひとつクリアし、2年秋に初めてベンチ入りすると、リーグ戦3試合を経験した。

 冬場は投げ込み。3月の宮古島キャンプでは2週間で1000球を投げ、投球フォームを体で覚えた。きっかけをつかむと、トントン拍子である。オリックス山本由伸の胸の張り、日本ハム伊藤大海の軸足の使い方を研究し、安定感あるフォームをつくり上げた。3年春には救援で7試合に登板し、山梨学院大戦で初勝利。上武大戦では自己最速149キロをマークした。春のシーズン後のオープン戦では150キロの大台に乗せ、投げるたびに球速アップ。夏には中央学院大とのオープン戦で、自己最速155キロを計測した。変化球もスライダー、カーブを軸に、チェンジアップとシンカーも大事な場面で使えるメドが立った。

第2段階は「技」とそして「心」


 今秋のリーグ戦は、投手陣の軸として回った。リーグ戦初先発となった白鷗大戦では延長10回でサヨナラ負け(1対2)も、190球の力投。作新学院大戦では延長11回、168球を投げ、リーグ戦初完封(1対0)を遂げ、続く関東学園大戦での無安打無得点試合と勢いづく。31回1/3で44奪三振と驚愕の奪取率を誇る。今秋、残るカードは8日の新潟大戦と9日の新潟医療福祉大戦の2試合。大島監督は新エースに対して「2勝」を要求する。

「学生を厳しい状況に置けば練習、体のケアの仕方、食事、睡眠を考えるようになり、自然と身につくものなんです。試合までの生活が、選手を育てます」(大島監督)

 2023年のドラフト候補に浮上した冨士は「プロは最終目標ですが、まだ、そこまでの実力はありません」と謙虚に語る。大島監督はこの秋を通じて第1段階の「体」の部分で、強さはクリアできたと確信する。第2段階は「技」とそして「心」。冨士は「フォームの再現性と変化球の精度を上げ、誰からも信頼される人間性を身につけ、考える力も養っていきたいです」と目を輝かせる。

 今春から着ける背番号「38」には意味がある。

「監督からは『嘘のサンパチだ』と言われています(苦笑)。エース番号の18を着けるためには、マイナス20。まだまだ足りない、と」

 指揮官は真の大黒柱と認めない限り「18」は着けさせないポリシーがある。今年1年間も空位だった。この秋の残り2試合は、来年の学生ラストシーズンへの試金石となる。

文=岡本朋祐 写真=矢野寿明
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