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28歳“ドラフト候補”臼井浩。なぜ154キロ右腕は大卒入社6年目でプロを目指そうと思ったのか?

 

「自分の中で自信がついた」


大卒入社6年目。28歳の東京ガス・臼井はプロ入りへのラストチャンスにかける


 10月20日のドラフトまで1週間。東京ガスの154キロ右腕・臼井浩(うすい・いさむ、中央学院大)はラストアピールへ腕を振った。日本製鉄鹿島とのJABA関東選手権1回戦(同13日)に先発。6回1失点(チームは2対1で勝利)で勝利投手となった。

「待つだけですので……。自分からできることはないので……。可能性からしたら、厳しい勝負かもしれない。当日の各球団の獲得選手による、運もあると思いますので……。ドラフト当日まで分からないと思います」

 28歳のドラフト候補。なぜ、大卒入社6年目でプロを目指そうと思ったのか。臼井の歩みを振り返る。

 光明相模原高(神奈川)を経て、中央学院大では4年時に大学選手権準優勝。東京ガスの入社1年目に6勝を挙げ、最多勝利投手。2年目には侍ジャパン社会人代表として、アジア競技大会で銀メダルを獲得。順調な道を歩んだが、プロ解禁となる大卒2年目でドラフト指名はなかった。3、4年目は都市対抗出場を逃した。19年は鷺宮製作所、20年はJR東日本の補強選手も、臼井は「停滞していた」と、もがき苦しむ日々を過ごしている。

 5年目を控えたオフシーズンが、ターニングポイントとなった。東京ガスOBの美馬学(現ロッテ)が、同社グラウンドでの自主トレで汗を流している姿から多くを学んだ。

 美馬は169センチ、臼井は168センチ。生きた教材からヒントを得た。「右足の使い方。ただ引きずるだけで、蹴れていなかった」。体重移動がスムーズになり、自己最速150キロを計測し、コントロールも安定した。アベレージは140キロ台前半から後半に上がり、スライダー、カットボールなどの変化球も精度が増した。5年目の昨年は都市対抗初制覇に貢献し、MVPにあたる橋戸賞を受賞した。

 6年目の今季も安定感抜群で都市対抗準優勝。「意図して150キロを出せるようになった。常に出せるようにしていきたい」。この2年の成長で、プロを目指そうと考えた。

「自分の中で自信がついた。今の自分ならば、プロで通用する。(4月2日で)28歳。最後のチャンスかな、と」

 ドラフト解禁だった入社2年目とは、明らかに手応えが違う。

「当時は147キロ。単純に、実力として、2年目の段階では、プロで通用しなかったと思います。試行錯誤する中で、野球がうまくなりたい、と練習を重ね、自信を得た形です」

スカウトからも高い評価


 オリックス阿部翔太は2020年10月26日、ドラフト6位で日本生命から28歳で入団。2年目の今シーズンは44試合に登板し22ホールドで、リーグ連覇に貢献した。臼井は言う。

「今の僕からしたら、後押しになる」

 10月8日、ヤクルトとの練習試合(神宮)では3回無失点と、あらためて素材の良さを披露。13日もネット裏には複数の球団が最終視察に訪れた。スピードガンを手に目を光らせた日本ハム・坂本晃一スカウトは言う。

「完成度では、アマチュアトップレベル。周りが見え、緩急が使え、ボールの出し入れができ、引き出しも多く、申し分ない。先発、中継ぎもできる。あとはプロの世界でのコンディショニング、年間143試合という中で順応できるかが、ポイントになると思います」

 臼井の下には、プロ球団からの調査書も届いているという。28歳のラストチャンス。静かに「運命の日」を待つ。

文=岡本朋祐 写真=BBM
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