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体幹を最大限使うフォームの山本由伸は日本シリーズで再び投げられるか? 医師が考える左脇腹違和感の理由/Daiki’sウォッチ

 

慣れない神宮のマウンド


ヤクルトとの日本シリーズ初戦で先発したオリックスのエース・山本


 2022年のプロ野球界総決算、日本シリーズの初戦(10月22日)。気温は15度前後、秋風の吹く神宮球場のマウンド上で沢村賞投手・山本由伸に異変が起きた。

 5回途中、球数64球で急遽降板。プロ入り2年目の2018年以来のヤクルトのホーム、神宮球場でのマウンドでオリックスが誇る大エースの左脇腹に違和感が走っていた。

 山本由伸が再びマウンドに戻ってくることはなかった。大黒柱、山本由伸でシリーズ2勝。そして日本一奪還という中嶋聡監督の計算に狂いが生じることになった。

「投球フォームのメカニズムは素晴らしい投手。今回の異変の要因として考えられるのは神宮球場の慣れないマウンドでの登板であること。そのマウンドでより高いパフォーマンスを求められる日本シリーズでの先発であったこと、そして気温15度と寒かったことも考えらます」

 こう語るのは佐々木朗希(ロッテ)や斎藤佑樹氏(元日本ハム)らの身体を診て来たベースボール&スポーツクリニックの馬見塚尚孝医師だ。

 22日の登板は2年半ぶりに1試合2本塁打を浴び、4失点を喫するのは実に3カ月ぶりのことだった。球界を代表するエースの様子は序盤から明らかにおかしかった。

 独特の傾斜、マウンドからの景色として好き嫌いが分かれるマウンドと言われる神宮のピッチャーズマウンド。硬い粘土質の赤土のマウンドではあるが、踏み出した足が土に引っかかったり、前足側の穴が想像以上に掘れやすいときもあり、アジャストするのに苦しむ投手もいると松坂大輔氏(元西武ほか)らが教えてくれたことを思い出した。

 ましてや日本シリーズ。エースとして必ず勝たなければいけない登板。百戦錬磨の沢村賞投手と言えど初回から力みが出るのは仕方がない。シーズン中との“少しの違い”が生んだアクシデントだったと言える。

「また、気温が15度と寒く、体表面温度が低かった可能性も考えられます。体表面温度が32度以下に下がると、神経の伝導速度は温度に応じて下がってきます。そうすると、いつもの感じより神経の伝導速度が落ち、“思ったとおりの投げ方”ができなくなることが想定されます。シーズン中より、さらに高いパフォーマンスを出そうと思っても、そうはいかないコンディションになってしまうことも要因として挙げられます」(馬見塚医師)


損傷の先には疲労骨折も


 そして、馬見塚医師は山本由伸の投球フォームの特徴にも触れた。

「山本由伸投手は身長が170センチ台とサイズは決して大きくない投手。その中で非常に高いパフォーマンスを出し続けてきました。足を上げてからボールを持つ右腕のテークバック後に体幹が強くしなる投球フォーム。球速を上げるために質量が大きく、その結果大きな運動エネルギーを生む体幹の動かし方が影響しますが、山本由伸投手のスロー動画を見ると体幹が大きくしなって球速を上げることに貢献していると推察しています」

 体幹……つまりは腹筋、側筋、背筋の各所を最大限に使って投じる投球フォームであり、そのため、近年は脇腹を含めた体幹の張りに悩まされてきたという。この2年は開幕から先発ローテーションを守り続け昨年、今年と2年続けて26試合の登板。投球イニングも190イニングを超えるというタフな2年を過ごしてきた。

「脇腹などの張りや筋損傷に関しては栄養の取り方でも大きく変わってきます。筋がスムーズに収縮し続けるための栄養素が十分摂取できていない場合や、トレーニングで各栄養素の必要量が増えている場合、そしてサプリメントに頼った栄養管理でも起きやすくなります。腹斜筋の損傷の先には肋骨疲労骨折などもあり得るため、あのようなハイパフォーマンスの選手には慎重に対応するようにしています」(馬見塚医師)

 筋肉の損傷だけでなく、疲労が蓄積し続けた場合、最悪のケースは骨折も考えられるという。20代前半にして厳しい場面を幾度となく乗り越え、チームを26年ぶりのリーグ連覇に導いてきた絶対的エース。

 今年の日本シリーズ、果たして山本由伸の2度目の登板はあるのか? そして、投げるとすれば第6戦以降の神宮球場のマウンドになるのか?

 連日、高山郁夫投手コーチらとコンディション確認を行うエース。日本一をつかむために、オリックスがどう判断するのか注目が集まる。

文=田中大貴 写真=BBM
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