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【MLB】新たな歴史を刻むフィリーズのカナダ人監督ロブ・トムソン

 

常に落ち着いた態度で選手たちとコミュニケーションを取るトムソン監督代行。その手腕を買われ、2年契約で監督契約を結び、チームはポストシーズンで快進撃を続けている


 借金7個以上のチームをシーズン中に引き継ぎ、ポストシーズンに導いた監督はMLB史上4人。1981年ロイヤルズのディック・ハウザー、89年ブルージェイズのシト・ガストン、2009年ロッキーズのジム・トレーシー、そして今年のフィリーズのロブ・トムソン、59歳である。その中で、さらにプレーオフシリーズを勝ち進んだのはトムソンが初めてで、ワールド・シリーズにまでコマを進めた。

 ワイルドカード・シリーズで名門カージナルスを倒した。フィリーズはその功に報い、代行監督ではなく、正式に監督として2年契約を与えている。トムソンはカナダのオンタリオ州出身で、実は史上3人目のカナダ出身監督でもある。

 一人目は1889年から99年までワシントン・セネターズなど5球団を率いたアーサー・アーウィン。2人目は1920年代から30年代にピッツバーグ・パイレーツなどを率いたジョージ・ギブソン。なんと88年ぶりのカナダ人監督が、ポストシーズンで初めてチームを率いる。

 カナダといえばラリー・ウォーカー、ジョーイ・ボットなど超一流のメジャー・リーガーを生んでいるが指導者で成功する人は少なかった。トムソンは85年のドラフト32巡捕手。マイナーで4シーズンプレーしたが1Aどまりで、20代でマイナーのコーチに。特にヤンキース傘下のチームで長く働いた。

 08年、ヤンキースのベンチコーチに就任、09年松井秀喜らと世界一の美酒を味わった。フィリーズに来たのは18年。ベンチコーチを務めていたが、今季成績不振でジョー・ジョラルディ監督が解任されると、6月3日監督代行に。

 その時点で22勝29敗だったが、以降は65勝46敗。ナ・リーグ第6シードと最後のイスをつかんだ。デーブ・ドンブロウスキー編成本部長は「トムソンはいつも落ち着いた態度で、選手やスタッフと上手にコミュニケーションが取れる」と讃えている。

 フィリーズにはブライス・ハーパー、ニック・カステラノス、カイル・シュワバーなどベテランが多い。「大切なことはリラックスできる環境を与えること。監督はおおらかで、パニックにならないし、選手を信頼してくれる」と言うのはアレク・ベーム三塁手だ。今のフィリーズの選手は自分たちで考えて野球をする。カージナルスとの第1戦、0対2の9回。敗色濃厚だったが、一死から粘る。ヒットのあと四番ハーパーがよく見て四球を選び、その後も四球、死球で押し出し。満塁からゴロが内野手の間を抜けた。

 試合後ハーパーは「うちは27個目のアウトを取られるまで絶対に諦めない」と誇らしげに言う。地区シリーズのブレーブス戦でも、初回二死からすべて反対方向への4連続単打で2点先行。3回は無死一塁からハーパーが犠牲バントで走者を得点圏に進め、加点した。

 ベームは「みんながつなぐ意識を持っている。次の人にバトンを渡すつもりで、大きいことを狙わずに小さいことをきっちりする」と言う。トムソンはMVP2度のハーパーにもチーム第一の意識を持たせている。そして下馬評は高くなかったのに、彼の指揮の下、ポストシーズンでも旋風を巻き起こしている。

文=奥田秀樹 写真=Getty Images
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