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“三冠王”目前! 巨人2位の慶大・萩尾匡也が戦後16人目の快挙を狙える位置に立てた理由

 

文徳高から慶大へ初の進学


慶大・萩尾匡也は戦後16人目の三冠王をかけて、最終カードの早慶戦を戦う


 打率.429、4本塁打、17打点。

 巨人からドラフト2位指名を受けた慶大・萩尾匡也(4年・文徳高)は、最終カードの早慶戦を前にして、打撃3部門でトップに立っている。

 打率2位は慶大・宮尾将(4年・慶應義塾高)の.389。本塁打は明大・宗山塁(2年・広陵高)が4本塁打で並んでいるが、すでに全日程を終えている。慶大の山本晃大(4年・浦和学院高)と廣瀬隆太(3年・慶應義塾高)が3本塁打で追っている。打点は明大・宗山が15打点、3位は慶大・山本が12打点。

 萩尾は東京六大学リーグ史上、戦後16人目の三冠王への挑戦となる。

 慶大は早慶戦で勝ち点を奪えば、昨秋以来のリーグ優勝が決まる。萩尾は「数字よりもチームの勝ち。大事なところで一本出す」と、主砲としての考えを語った。

 萩尾は努力の男である。

 熊本・文徳高野球部から慶大に進学するのは初。中学時代から成績優秀で県立進学校・済々黌高への進学も視野に入れていたが、さまざまな背景があり、文徳高へ進んだ。

「父は高校卒業後、東京六大学でプレーしてほしいという思いがあったようです」

 右のスラッガーは2年夏までに、NPBスカウト注目の存在となった。一時期は高卒でのプロ志望も選択肢の一つにあったという。とはいえ、本心は神宮でプレーすることだった。

 慶大への「ルート」ができたのは、2年生6月の招待高校野球だった。同春の県王者・文徳高は慶應義塾高、早実と対戦。早実には1学年上の清宮幸太郎(日本ハム)がいた。

 慶應義塾高との一戦を機に同年冬、慶大野球部関係者からAO入試を紹介された。慶大にはスポーツ推薦がない。大学側としては、あくまでも受験を斡旋するだけであり、合格する保証はどこにもない。萩尾は「挑戦できるチャンスがあるならば」と、腹を決めた。

 3年夏の県大会初戦敗退以降は、完全入試モードとなった。「かなり大変でした」。一次選考では書類の作成に追われ、二次選考は超難関の面接である。なぜ、慶大で学びたいかを、具体的にかつ、自分の言葉で述べなければいけない。萩尾は1期の二次選考で不合格。あとがなくなった。「ここまで取り組んできたので、やれるとこまでやる」と2期を出願。背水の陣で臨み、合格することができた。

指揮官の言葉で目が覚めた


 苦労人である。リーグ戦デビューは2年春。3年春からレギュラーとなり、リーグ優勝を経験するが、打率.250、0本塁打、0打点と、29打席で13三振と周囲が期待する働きができなかった。全日本大学選手権では無念のメンバー漏れ。秋のシーズンへ向けた夏のオープン戦で慶大・堀井哲也監督から言われた。「表情が暗いぞ!!」。心のどこかで、焦りがあった。指揮官からの言葉で目覚めた。

「楽しんでやるのは、緊張感を持って取り組むことなんだと思っていました。あえて、表情にも出さないようにしていましたが、やはり、楽しんでやることが大事なんだ、と。それが僕なのかな、と気づかされました」

 慶大野球部のメンタルコーチである吉岡眞司氏からのアドバイスにより、打席における平常心を身につけた。「気持ちが整わないと、結果は出ない」。技術的には、1学年上の同じ右打者である正木智也(ソフトバンク)に弟子入り。ボールの内側をたたくイメージである、インサイドアウトのスイングを徹底的に磨いた。心が吹っ切れた3年秋は打率.333で春秋連覇に貢献。準優勝の明治神宮大会では打率.462(13打数6安打)、2本塁打、6打点と大暴れし、ドラフト戦線に急浮上した。

 4年春は打率.339、5本塁打、17打点。今夏は侍ジャパン大学代表でプレーし、大学球界を代表するスラッガーへと成長を遂げた。そして、学生ラストシーズンは「三冠王」が手の届くところまで来ている。どんな場面でも冷静沈着。そして、笑顔を忘れない。シンプルに、練習してきたことを試合で発揮するだけ。萩尾はチームのために、無心でバットを振る。自ずと「結果」は見えてくるはずだ。

文=岡本朋祐 写真=BBM
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