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秋季東京都大会を制した東海大菅生 原動力は“愛されキャラ”の190センチ右腕エース・日當直喜

 

マウンドを譲らずに


東海大菅生高のエース右腕・日當は二松学舎大付高との東京大会決勝[11月13日]で2失点完投[8対2]。2年ぶり4度目の優勝へ導き、マウンド上でガッツポーズを見せた


 7人きょうだいの5番目。東海大菅生高の190センチ右腕エース・日當直喜(2年)には兄2人、姉2人、妹2人がいる。準決勝の前日が両親の結婚記念日だった。「おめでとう!!」と電話すると「明日は打ってね!!」との激励の言葉があった。

 日大三高との東京大会準決勝(11月12日)。日當は135球を投げ、10安打を浴びながら2失点完投すると、同点の8回にはエース自ら決勝打を放った。東海大菅生高・若林弘泰監督は親しみを込めて言う。

「宝くじが1億円当たった気分です。練習では一番、飛ばすんですが、試合では……。でも、1試合1本は、ほぼ出るんです。(6回の第3打席で)1本出てしまったので……。間違って2本目が出て良かったです」

 3対2の接戦を制した。東京大会は来春のセンバツに向けた参考資料である。関東・東京の一般選考枠は「7」(関東5、東京1は基数。残る1枠は両地区の比較検討で選出)。東海大菅生高は一つの山を越えたわけであるが、選出を「当確」とさせるためには、優勝のタイトルが必要だった。若林監督は「回復力がある」と、翌13日の二松学舎大付高との決勝でエース・日當を惜しみなく先発で投入した。

 この大一番で被安打10も2失点と粘り、前日と同様、135球で完投した(8対2)。3回戦から決勝まで4試合、マウンドを譲ることは一度もなかった。

「決勝前夜、監督の部屋に行って『大丈夫か?』と聞かれたので『投げ切ります!』と。寝ているときも、アドレナリン全開でした。朝6時に起床してからは30分、風呂に入って、ストレッチをしてから出発しました。アドレナリンはずっと、出っ放しでした」

指揮官の低評価に発奮


 旧チームの昨秋は東京大会8強、今春は8強、夏は準優勝と、いずれも日大三高に敗退した。下級生時代の2021年春、夏の甲子園を経験した1学年上の主力メンバーが引退。公式戦に常時出場していたのは、日當のみだった。現在の2年生のレギュラーメンバーは若林監督がクラス担任だが「野球も最低。生活も最低」と、評価を得られなかった。そこで、渡部奏楽(2年)が「チームを変える」と主将に就任し、一つひとつ取り組みを改めた。しかし、若林監督からは「史上最弱」と揶揄された。

「やってやろう!! 黙らしてやろう!!」

 日當の闘志に火がついた。コメントの一部分を見ただけで、誤解をしてはならない。若林監督へ絶大な信頼を寄せるからこそ、出た言葉だ。指揮官も同様、日當のすべてを包み込んでいる。

 桜堤中時代にプレーした鐘ヶ淵イーグルス(軟式)時代、グラウンドへ視察に来た若林監督から誘われた。東海大菅生高への進学理由を問われると「若林先生が好きで入りました」と即答した。具体的な決め手については「厳しさの中に愛情があるので。若林先生がここまで育ててくれた。若林先生なくして、今の自分はない。感謝しています」と語った。

 準決勝、決勝を通じて2ケタ安打を許したものの、要所では粘りを見せる。「ベンチはたまったものではありませんが、ランナーを背負いながらも、なんだかんだ抑える」。さらに、若林監督はこう続けた。

「練習試合と公式戦は違うんだな、と。公式戦で裏切られたことはないです。信頼はしたくないですけど、カワイイ奴ですよ!!」

 教え子へ、愛情たっぷりのコメントである。

「若林先生を甲子園に連れていく!」


左から二松学舎大付高との東京大会決勝で勝ち越し2ランを放った新井瑛喜、エース・日當、チームを結束させた主将・渡部奏楽


 決勝の6点リードで迎えた9回表一死満塁。打席には1年生四番・片井海斗が立った。今夏の甲子園で本塁打を放った右のスラッガーに対しても日當は「打てるものなら、打ってみろ!!」と真っ向勝負を挑み、二ゴロ併殺でゲームセットとなった。片井と対峙する直前、背番号1はバックスクリーンを向いて、目を閉じた。3つの思いを、心の中で唱えた。

「最後は気持ちだ! やればできる! 若林先生を甲子園へ連れていく!」

 日當の座右の銘は「気持ちは技術を上回る」。実は1週間前の練習試合は不甲斐ない投球内容であったため、若林監督からカミナリを落とされた。「お前に気持ちがなかったら、何も残らないだろう」。ヒザとヒザを突き合わせた約1時間で、日當は初心に戻ることができた。

 準決勝前夜には、日當の呼びかけにより、気持ちを一つにするため、全員が頭をきれいに剃った。準決勝、決勝は気迫の全員野球で、2年ぶり4度目の優勝を遂げたのである。

 7人きょうだいという環境で育ったからこそ、人を見る目がある。機転が利くコメントも発信できる。この2日間で、報道陣を何度、笑わせたことか……。天真爛漫のエース。若林監督は「寮生活でも、周りが日當の扱いに慣れてきた(苦笑)」と冗談交じりに語るのも、チームの象徴として、愛されキャラの証しだ。

 最速148キロで、変化球はフォークが最大の武器。今大会を振り返り「自分の力だけでは抑えられなかった。仲間が守ってくれたから。最高のチームになった。周りから応援されて、仲間に信頼されながら勝つのが目標。秋も日本一。春も日本一を取る」と意気込み語った。

「お金では買えない大きなものをプレゼントできた」と、両親の結婚記念日をあらためて祝福。無尽蔵のスタミナは「父と母のおかげ。感謝しています」と、寿司50皿を平らげる大食漢で、母の手作りのミートソーススパゲッティが大好物と明かした190センチ右腕。2年ぶり、来春のセンバツ出場は当確。まずは、全国10地区の優勝校が出場する明治神宮大会(11月18日開幕)での優勝を固く誓った。

写真=田中慎一郎
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