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なぜ加藤貴之は規定投球回クリアで史上最少与四球「11」を達成できたのか?/元ヤクルト・荒木大輔に聞く

 

読者からの質問にプロフェッショナルが答える「ベースボールゼミナール」。今回は投手編。回答者は高校時代に甲子園で名を馳せ、プロ野球でもヤクルトで活躍、さらに西武、ヤクルト、日本ハムでも指導者経験のある荒木大輔氏だ。

Q.日本ハムの加藤貴之投手が1950年に野口二郎(阪急)が記録した規定投球回をクリアした投手の最少与四球は「14」を抜く「11」で今季を終了しました。加藤投手が制球力抜群の理由はどのようなところにあるのでしょうか。(神奈川県・匿名希望・40歳)


昨季途中から投球が進化して四球がさらに減っていった加藤


A.持ち前の投球感覚を備えている加藤。投球で力むことがなくなったのも大きな要因

 私は昨年、日本ハムで一軍投手コーチを務め加藤貴之投手を指導していましたが、彼は基本的にセンスがあるんですよね。投球感覚が優れている。それは投手それぞれが本来的に備えているもので、なかなか教えられるものではありません。とはいえ、その能力を最初から完璧にマウンドで発揮できていたわけではなかったと思います。

 ここで、まず加藤投手の入団からの9イニングあたりに換算した四球数を表す与四球率を見ていきましょう。2016年が3.05(91回1/3、31四球)、17年が2.85(120回、38四球)、18年が2.22(113回1/3、28四球)、19年が2.25(92回、23四球)、20年が3.57(58回、23四球)、21年が1.26(150回、21四球)、そして今年が0.67(147回2/3、11四球)となっています。2個台が多く、それも決して悪い数字ではないのは間違いありません。ただ、私の目には加藤投手の欠点として映っていた点がありました。

 多くの投手がそうかもしれませんが、加藤投手も例えばどうしても抑えたい場面になると、力が入ってしまうことがありました。やはり力むとコントロールが乱れてしまいます。加藤投手はブルペンでもヒョイヒョイとテンポ良くボールを投げ込んでいきます。コントロールはビシビシ。私は打席に立って球筋を見ることがありましたが、力を入れたときの投球と普通に投げているときの投球で体感スピードはそんなに変わりませんでした。それを加藤投手に伝え、マウンドで必要以上に力を入れなくていいとアドバイスをしましたね。それは私だけでなく、ブルペン捕手なども加藤投手に話していました。

 加藤投手が実際に抑えたい場面で力を入れなくても打者を差し込んだりしてピンチを切り抜けるなど、成功体験が積み重なっていき、昨年途中から徐々に新たなピッチングが確立されていきました。昨年の与四球率も1.26と非常に素晴らしい数値を示していますからね。今年は開幕から、そういったピッチングができていることで、規定投球回をクリアした投手の最少与四球記録を樹立できたのだと思います。

 私が見てきた投手の中で、ほかに制球力が抜群だと思ったのは尾花高夫さん(元ヤクルト)。サイドスローですけど、斎藤雅樹投手(元巨人)も良かったですね。あとは涌井秀章投手(楽天)。横浜高から西武に入団したとき、私は投手コーチでしたが、とにかくリリースポイントが信じられないくらい前。私がヤクルトでの現役時代、「ボールを前で離せばコントロールが良くなる」と野村克也監督がよく言っていました。球離れの位置を確認するために、野村監督はブルペン投球を横のほうから見ていました。そんなことを思い出しましたね。

●荒木大輔(あらき・だいすけ)
1964年5月6日生まれ。東京都出身。早実から83年ドラフト1位でヤクルト入団。96年に横浜に移籍し、同年限りで引退。現役生活14年の通算成績は180試合登板、39勝49敗2セーブ、359奪三振、防御率4.80

『週刊ベースボール』2022年10月17日号(10月5日発売)より

写真=BBM
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