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高校野球リポート

「西谷浩一監督マニア」を自認する仙台育英・須江航監督が感じた大阪桐蔭との差とは?

 

「こんなステキな終わり方はない」


仙台育英高の主将・山田は今秋の新チームを通じて、大きく成長した


 仙台育英高・須江航監督には「言葉力」がある。2022年夏、東北勢初の全国制覇へ導いた指揮官は下関国際高(山口)との決勝後、甲子園のお立ち台で名言を残している。

「青春って、すごく密なので、でもそういうことは全部『ダメだ、ダメだ』と言われて、活動していても、どこかでストップがかかって、どこかでいつも止まってしまうような苦しい中で、でも本当にあきらめないでやってくれた」

 今年の高校3年生は、新型コロナウイルスの感染拡大の影響を、まともに受けた世代だった。本来の高校生活とはかけ離れた状況が続いた。部活動も多くの制限下で実施された。

 もう一つ、心に刺さったメッセージがある。

「全国の高校生のみんなが本当によくやってくれて、例えば、今日の下関国際さんもそうですけど、大阪桐蔭さんとか、そういう目標になるチームがあったから、どんなときでもあきらめないで、暗い中でも走っていけたので、本当にすべての高校生の努力のたまものが、ただただ最後、僕たちがここに立ったというだけなので、ぜひ全国の高校生に拍手してもらえたらなと思います」

 全国で最も準備期間が少なかった今秋の新チーム。仙台育英高は手探りの中でも須江監督の指導力と、今夏の経験者&新戦力が融合し、東北大会優勝。そして、全国10地区の優勝校が出場する明治神宮大会では4強進出。大阪桐蔭高との準決勝(11月21日)で敗退後(4対5)、須江監督は記者会見の冒頭で言った。

「結果的に収穫がたくさんあったり、課題も出たんですけど、東北に1枠を持って帰れないという事実がとても悔しい」

 目配り、気配り、心配りの教育者である。

 明治神宮大会優勝校の地区には、来春のセンバツ甲子園の「明治神宮大会枠」が与えられる。一般選考枠が従来から1枠増(東北地区であれば3校→4校)。昨夏の甲子園優勝時も「宮城の皆さん、東北の皆さん、おめでとうございます。100年開かなかった扉が開いたので、多くの人の顔が浮かびました」と語っていたが、須江監督は今大会も、東北の高校野球界を背負い、指揮を執っていたのだ。

 そして、神宮でも名言を残した。

「勝って終われれば言うことはなかったですが、負けて終わった中では最高の負け。届きそうだなという感覚もあるし、でも役者が違うというか、1個遠いなというのも体感できました。こんなステキな終わり方はないと思うので、春が楽しみです」

主将もリベンジへ闘志


 準決勝の相手は、ずっとターゲットにしてきた大阪桐蔭高。須江監督は「大阪桐蔭マニア」「西谷浩一監督マニア」を自認する。仙台育英高は「日本一のチーム内競争」を目標としているが、そのお手本が大阪桐蔭高だった。

 スコアは4対5。仙台育英高は序盤の1、2回で計2点と先手を取ったが、6回裏に逆転を許し、8回裏に追加点を奪われた。2対5の9回表に1点差としたが、あと一歩、及ばなかった。須江監督は4失点で完投した相手左腕・前田悠伍(2年)を「世代No.1」と認め、敗戦を素直に受け入れたが、それ以上に差を感じたのはチーム力だった。

 春4度、夏4度の甲子園優勝を誇る西谷監督のベンチワークにも、着目すべき点があった。

「(この大会は)春へのステップとして位置づけて(仙台育英から見れば)好きにさせているな、と。引き出しがある中で戦っていた。ウチとしては、ロースコアの展開に持っていかないと。10対9では勝てないです」

 具体的な「差」は2つあると分析する。

「1球の精度が、スキル的にも出る。(好機の場面で)ウチはファウルでも、相手はしっかりと決めてくる。あとは勝負勘。ウチもできるようにはなってきましたが、『ここだぞ!』という、フォーカスの当て方。厳しいチーム内競争で、近畿大会でも『打倒・大阪桐蔭』の中でも、跳ね返していく力が素晴らしい。追いかけるべき王者。次のチャレンジこそ、壁を越えないといけない」

 今夏の全国制覇時も二番・遊撃のレギュラーだった主将・山田脩也(2年)は「大阪桐蔭という一つの壁をこの秋は越えられなかったので、次はリベンジしたい。この秋に出た反省点を、冬の練習にしっかり収穫できるように、もう1回、甲子園に出られるチャンスを全員でもぎ取りたい」と表情を引き締めた。言うまでもなく、東北大会優勝校・仙台育英高の来春のセンバツ出場は「当確」の立場であり、夏春連覇へのチャレンジとなる。

 須江監督の「言葉力」に裏付けされた卓越したチームマネジメントの下、仙台育英高は充実のオフシーズンを過ごしていく。

文=岡本朋祐 写真=菅原淳
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