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「指導者の中の指導者」と称された松永怜一氏 生涯にわたって忘れなかった「学び」

 

激励会で30分以上の熱弁


5月12日に死去した松永怜一氏[元法大監督ほか]は野球界にとどまらず、日本のスポーツ界全体の競技力向上と普及に貢献した


 春、秋の東京六大学リーグ戦開幕前。法大野球部合宿所では野球部OB会(法友野球倶楽部)主催の激励会が恒例行事としてあった(2020年春以降はコロナ禍で中止)。OB諸氏は午後からのオープン戦を観戦し、夕方に寮の食堂で会合スタート、という流れだった。

 旧合宿所時代は「すき焼き会」と銘打ち、鍋を囲んでいたが、新合宿所となった2001年以降は、オードブル料理などが用意された。神宮での真剣勝負を控えた現役部員にとっては、OB・OGと触れる貴重な機会であった。

 かつて、法友野球倶楽部の会長を歴任していた松永怜一氏は激励会におけるあいさつで毎回、30分以上の熱弁を込めて語っていた。大先輩からの言葉であり全員、箸を止めて話を聞く。OB会長を勇退して以降も、毎回、この激励会にはほぼ出席。母校への率直な思いを、発言する。忖度などない。すべて、本音で意見。褒めることよりも、厳しいメッセージが大半であったと記憶する。すべてが正論であり、現場としては学ぶべきことが多々あった。そして、実際に取り入れたとも聞く。

 晩年まで法大以外にも高校、大学などのグラウンドに足を運び、白球への情熱を燃やした。実際に見て、感じないと、指摘はできないというポリシー。「現場主義」を貫いた松永氏は5月12日に死去した。90歳だった。

 八幡高(福岡)、法大でプレーした後は法政一高、堀越高の監督を務め、母校・法大を率いた。住友金属を指揮した後は、1984年のロサンゼルス五輪で金メダルを獲得。JOCの選手強化本部長としても手腕を発揮し、野球界だけでなく、スポーツ界全体に影響力があった。2007年に特別表彰で野球殿堂入りした。

 松永氏の功績は選手を育成しただけではなく、「指導者の中の指導者」と言われたように、常に世界に目を向け、時代に合わせたアプローチをしてきたことにある。生涯にわたって「学び」を忘れなかった。

部員としての品格も訴えて


法大時代に指導を受けた山本浩二氏[左]、田淵幸一氏[中央]、1学年下の江本孟紀氏[右]も、恩師との別れを偲んだ


 11月23日、東京都内のホテルで「松永怜一さんを偲ぶ会」が行われ、約300人が出席した。法政一高で2年間、法大で4年間、薫陶を受けた田淵幸一氏(元阪神ほか)は、お別れの言葉で「私の人生の最初の師であり、今日があるのも、監督のおかげ。野球のイロハのイの字を教わった」と感謝を述べた。同級生の山本浩二氏(元広島)も「大学で鍛えていただいたのが、今日までの原点。引退後も五輪(2008年の北京五輪コーチ)、WBC(13年のWBC監督)で助言をいただいた。本当にありがとうございました。安らかにお眠りください」と語った。2人に共通する猛練習こそが、人生の土台となっている。

 この日は大学授業のない法大の現役部員も30人が出席。昭和の名将の功績に接し、大先輩のお別れの言葉に耳を傾けた。

 法大・加藤重雄監督は神妙に話した。

「監督就任前ですが、臨時コーチを務めさせていただいた当時も、たびたび松永さんにはグラウンドに足を運んでいただき、熱心な指導をしていただきました。監督としてはまだまだ、足元にも及びません……。本日は背筋を伸ばして、出席させていただきました。学生たちにも、気持ちは伝わったはず。来年こそは、良い報告をさせていただきたい」

 献花後のお清め会場には、松永氏の思い出の品が展示。法大監督時代の優勝パネルら栄光の足跡が並んでいた。法大は2020年春を制した後は5位、4位、5位、4位、5位と下位に低迷。松永氏が生前に訴えていたのはグラウンドにおける練習量だけでなく、部員としての品格。野球人である大前提として、学生であるということだ。

 松永氏は八幡高3年春のセンバツ出場時、韮山高(静岡)に準々決勝敗退。整列後に対戦校の主将に対し「僕たちの分まで頑張ってくださいね!!」と口にしたという。今では甲子園でお馴染みの光景だが、そのルーツは松永氏にあったという。当時の新聞には「スポーツマンシップのお手本」と取り上げられた。

 相手がいなければ、試合は成立ない。審判員がいなければ、試合は進行しない。勝負事ではあるが、すべての関係者にリスペクトする思いを、指導者としてのポリシーとしてきた。

 この日は新主将となった今泉颯太(3年・中京大中京高)も出席しており、松永氏からの「学び」を現場へと落とし込んでいくはずだ。

文=岡本朋祐 写真=BBM
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