育成落ちからはい上がって
今季5年ぶりのBクラスとなる4位に終わった巨人。
坂本勇人が度重なる故障で83試合出場に終わり、リーグワーストのチーム防御率3.69と投打の歯車がかみ合わない試合が続いた。その中で、希望の光は若手の台頭だ。ドラフト1位で入団した
大勢が守護神で37セーブをマーク。
山崎伊織、
赤星優志、
堀田賢慎ら成長株が台頭した。野手に目を移すと、坂本の離脱時に高卒2年目の
中山礼都が競争を勝ち抜き、遊撃を守り続けた。そして、この男も飛躍の年になった。22歳の若武者・増田陸だ。
他球団のスコアラーは、その打撃センスを高く評価する。
「打撃フォームを含めて坂本勇人と重なりますよね。対応力が高い選手で穴がない。
中田翔が後半戦に打撃好調だったので守るポジションがなかったですが、打撃はレギュラー級でしょう。パンチ力があるし、将来は打率3割、20本塁打をクリアできる。スタメンで使い続ける価値がある選手だと思います」
明秀日立高から2019年ドラフト2位で入団時は、「坂本勇人2世」と期待された。与えられた背番号は坂本が新人のときに着けていた「61」。だが、プロ3年間で一軍出場なし。センスはあるが、殻を破り切れない印象だった。昨オフに育成契約に移行し、背番号は「061」に。このままでは野球人生が終わってしまう。危機感が増田陸を突き動かした。師匠の坂本勇人と行う1月の自主トレで丸刈り姿に。春季キャンプは三軍で迎えたが、ここからはい上がった。実戦でアピールし続け、2月19日に一軍昇格。3月11日に再び支配下昇格する。
喜怒哀楽を前面に
開幕は二軍で迎えたが、5月5日にプロ入り初の一軍昇格。同月15日の
中日戦(東京ドーム)で
柳裕也からプロ初アーチを放つ。左中間スタンドの中段に運ぶ豪快な一撃で存在感を示すと、その後も途中出場で結果を出し続けた。一塁でスタメン起用されるようになり、6月3日の
ロッテ戦(東京ドーム)で
佐々木朗希から初回に先制の右中間適時二塁打。160キロを超える剛速球に対応するため、バットを指3本分短く持ちコンパクトに振り抜いた。翌4日の同戦でも7回一死二、三塁で同点に追いつく中前適時打を放ち、逆転勝利に大きく貢献。2日連続でお立ち台に上がり、注目度が一気に高まった。
喜怒哀楽を前面に出す増田陸にプレースタイルは、闘志を内に秘めた選手が多い中で新鮮に映る。発言も野心を隠さない。プロ初の一番に抜擢された6月25日の
ヤクルト戦(神宮)で、2回にバックスクリーン右へ3号ソロを放つなど猛打賞と打線を牽引し、「一番で起用されたのでガツガツいこうと思いました。若いのでもっとガツガツいってチームの勝利に貢献できるようにもっと頑張りたい」と貪欲だった。
外野にも挑戦して
今季は69試合出場で打率.250、5本塁打、16打点。得点圏打率.300と勝負強さを発揮したが、来季の一軍が確約されたわけではない。秋季キャンプでは外野守備に初挑戦した。レギュラーを狙うポジションは
アダム・ウォーカーが守る左翼と、
吉川尚輝が守る二塁。簡単な挑戦ではないが、育成契約で三軍からはい上がった今年の歩みを考えれば、実現可能な目標だ。
同期入団で同学年の
戸郷翔征は自己最多の12勝をマークし、エースへの道のりを歩んでいる。投手と野手でポジションが違うが、増田陸も負けられない。巨人の未来を背負う使命感を持って突き進む。
写真=BBM