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酔いどれの鉄腕

あぶさんで一気に「南海・佐藤ミチ」が全国区になった。ただ、それは名前と漫画だけ……。仙台の夜で寂しい話があった/佐藤道郎『酔いどれの鉄腕』

 

 元南海─大洋の佐藤道郎氏の書籍『酔いどれの鉄腕』が2月4日にベースボール・マガジン社から発売される。

 南海時代は大阪球場を沸かせたクローザーにして、引退後は多くの選手を育て上げた名投手コーチが、恩師・野村克也監督、稲尾和久監督との秘話、現役時代に仲が良かった江本孟紀門田博光、コーチ時代の落合博満村田兆治ら、仲間たちと過ごした山あり谷ありのプロ野球人生を語り尽くす一冊だ。

 不定期で、その内容の一部を掲載していく連載の今回が第3回である。

俺たちのことを知らねえのかな


『酔いどれの鉄腕』表紙


 今回は「第3章横浜大洋時代」より、漫画家・水島新司さんとの逸話を紹介する。横浜大洋で1980年限りで引退したあとの、さまざまな思い出を語っている中で出てきた。

 野村南海と言えば、水島さんの漫画『あぶさん』を思い出す人は多いだろう。佐藤さんも当初はその主要登場人物だった。

 連載が始まってしばらくして、南海時代の東北遠征での話だ。

『あぶさん』は、すぐ人気漫画になって、おかげで俺たち南海の連中の名前が全国区になった。大阪以外に行っても「南海の佐藤ミチ」と言えば知ってる人が増えた。ただ、悲しいかな、知ってもらったのは名前と漫画の顔だけで、本人の顔とは一致しないんだけどね。実物がちょっと二枚目過ぎたかな(笑)。

 ロッテと仙台で試合をしたあと、門田(博光)と飲みに行ったとき、こんなことがあった。バーに飛び込みで入ったんだけど、カウンターだけの店で、ママさん1人と奥に2人連れの客がいた。

 その店に巨人の背番号50番台、60番台、70番台のサインが何枚も飾ってある。要は二軍の選手だね。巨人のファームは東北遠征を結構やってたから、そのとき遊びに来て書いたんだろう。

 俺が「よく巨人の選手が来るんですか」と聞いたら「〇〇選手と〇〇選手がこの間いらっしゃった」とうれしそうに言っていたけど、どれも知らない名前だった。

 だから「へえ、知らないな」と言ったら「知らないんですか」って、びっくりした顔をされちゃった。それ以前に「俺たちを知らないの!」だったけどね。門田が「南海の三番打者とリリーフエースだぜ。気づかんかな」ってこぼしていたよ。

 しばらくして、お客さんの1人が「『あぶさん』読んでるか。あそこに出てくる、佐藤ミチというのが、お酒をびっくりするくらい飲むらしいよ」って言ったんだ。しかも「日大時代にボコボコに殴られて鼓膜を破られて、飲まないと上級生に殴られるから大酒飲みになったらしいぜ」って、ほんととウソが混ざったような話をしだした。門田がこっちを見てニヤニヤ笑って何度もヒザをぶつけてきたけど、「それ、俺です」とも言えないよな。

第3章「横浜大洋時代」より。
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