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酔いどれの鉄腕

ロッテのコーチは稲尾和久さんから直接電話で誘ってもらった。俺はあの人より酒が強い人は見たことがない/佐藤道郎『酔いどれの鉄腕』

 

 元南海-大洋の佐藤道郎氏の書籍『酔いどれの鉄腕』が2月4日にベースボール・マガジン社から発売される。

 南海時代は大阪球場を沸かせたクローザーにして、引退後は多くの選手を育て上げた名投手コーチが、恩師・野村克也監督、稲尾和久監督との秘話、現役時代に仲が良かった江本孟紀門田博光、コーチ時代の落合博満村田兆治ら、仲間たちと過ごした山あり谷ありのプロ野球人生を語り尽くす一冊だ。

これは不定期で、その内容の一部を掲載していく連載である。

大広間の舞台で寝転がったまま一気飲み


『酔いどれの鉄腕』表紙


 今回は「第4章ロッテコーチ時代」より、監督の稲尾和久さんに関する逸話を紹介する。佐藤さんは「稲尾さんは、人間を教えてくれた恩師」と今も感謝している。

 稲尾和久さんから電話があったのは1983年の秋だった。それまではあいさつする程度だったから思わず聞いちゃったよ。「どちらの稲尾さんですか」って。

 そこで「俺だ、稲尾だ!」って怒られてから「ロッテの監督になったからピッチングコーチをしてくれんか」と言われた。

 びっくりしたけど、うれしかったよ。西鉄でシーズン42勝の神様、仏様から声が掛かったんだからね。もう緊張しちゃって契約の条件も聞けない。「一軍ですか、二軍ですか」と聞くのが精いっぱいだった。「俺が言うんだから二軍のわけないだろ」と笑って「球団じゃないぞ、俺が呼んだんだぞ」とも言ってくれた。

 コーチになってからだけど、「何で俺だったんですか」って聞いたら、テレビの解説を聞いて興味を持ってくれたらしいね。

(中略)

 俺は稲尾さんより酒が強い人は見たことがない。俺もそれなりに飲めたよ。日大で殴られながら一升瓶を一気飲みしろと言われたときは飲んだけど、あの人は別格だった。

 覚えているのは、千葉でやった納会。土、日とゴルフで、土曜の夜は大広間で無礼講の大宴会というやつね。

 池田重喜さんというトレーニングコーチが「ロッテ式でいいですか」って言うから「よく分からんけど、好きにやってください」と言ったら、アイスペールに氷を入れ、ウイスキーのサントリーオールド2本分を注いで少し水を足したのを回していった。

 みんなが少しずつ飲んでね。そしたら最後の稲尾さんのところに行くまでに空になっちゃった。

 稲尾さんが「池、もう1回つくれ」と言って、同じようにオールド2本をどぼどぼ入れたのを渡したら、稲尾さんがそれを持って大広間の舞台に上がって飲もうとしたんだが、氷も入っているし、重くて持ち上がらなかった。

 俺も末席から「何が神様、仏様や!」ってヤジってたけどね。そしたら「重いから横になるわ」と言って横になって「池、手伝ってくれ」と寝転がったまま池田さんと一緒に持ったアイスペールを一気に飲んじゃった。

 俺の経験上、立っていたら結構、飲めるけど、横になったらなかなか入らない。最初はみんなではやし立てたけど、最後はシーンとなっちゃった。

 少しこぼしたし、時間もかかったけど、結局、全部飲み干してから立ち上がって、「おい、これでいいか」ってニッコリ。

 これは42勝するわって思ったよ。

第4章「ロッテコーチ時代」より。
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