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酔いどれの鉄腕

稲尾和久さんの歌で、北海道の荒くれ男たちが泣いた話。俺は稲尾さんの下で選手をやってみたかった/佐藤道郎『酔いどれの鉄腕』

 

 元南海-大洋の佐藤道郎氏の書籍『酔いどれの鉄腕』が2月4日にベースボール・マガジン社から発売された。

 南海時代は大阪球場を沸かせたクローザーにして、引退後は多くの選手を育て上げた名投手コーチが、恩師・野村克也監督、稲尾和久監督との秘話、現役時代に仲が良かった江本孟紀門田博光、コーチ時代の落合博満村田兆治ら、仲間たちと過ごした山あり谷ありのプロ野球人生を語り尽くす一冊だ。

 これは不定期で、その内容の一部を掲載していく連載である。

稲尾さんは「俺はピッチングコーチ補佐だ」とと言ってくれた


『酔いどれの鉄腕』表紙


 今回紹介するのは、佐藤道郎さんがロッテコーチ時代の監督、稲尾和久さんとの逸話で、この連載で2度目の登場となる。

 ご存じ西鉄ライオンズの大エース。よく食べ、よく飲み、よく笑う人だったという。球界で稲尾さんを悪く言う人はいない。

 稲尾和久さん(当時ロッテ監督)は、俺にとってはコーチとしての最初の監督だったけど、最高だった。最初に「ミチはピッチングコーチ、俺は監督とピッチングコーチ補佐だ」と言ってくれ、実際、必ず「お前ならどうする?」と聞いてくれた。

 しかも稲尾さんはダメだったときも「ミチ、ダメだったけど、俺もそれがいいと思っていたよ」と言ってくれるんだ。そんな人いないよね。「任せた」と言ったくせに、結果が出ないと「なんでそんな指示をしたんだ!」と怒る人ばっかりだから。

 稲尾さんでよく覚えているのは北海道遠征で、確か釧路だったと思う。稲尾さんと一緒に小さなスナックに行ったら、地元の漁師らしかったけど、少し荒っぽい感じの連中がこっちをジロリと見た。でも、すぐみんな稲尾さんと気づいて、ザワザワしだしたんだ。「あれ、西鉄の稲尾じゃないか」「神様、仏様だよな」みたいな声が聞こえた。

 そしたら稲尾さんがカラオケのマイクを持って、「神様、仏様の稲尾様でございます。一曲、歌わせていただいていいでしょうか」と言って『おやじの海』を歌い出したんだ。村木賢吉さんの歌で、北海道の漁師の歌。稲尾さんもお父さんが漁師だからかな、しみじみ心に染みるような歌い方だった。

 そしたら、びっくりしたけど、荒くれの漁師たちが、みんな泣きだしたんだ。

 俺は野村克也さんも大好きだけど、稲尾さんの下でも現役でやってみたかった。親分だよね。怖い人じゃないけど、その言い方がぴったりくる。
週刊ベースボール編集部

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