9球団18人のスカウトが集結

　2023年、球春到来だ。高校野球は3月4日に対外試合が解禁。5日には152キロ左腕が猛アピールを見せた。享栄高・東松快征(とうまつ・かいせい)である。

　享栄高グラウンドには9球団18人のスカウトが集結。このうち7球団は東海地区担当スカウトだけでなく、管理職も同行する熱心ぶりだった。コンディションを上げてくる夏の地方大会前ではなく、調整段階の春の練習試合に上司の視察を依頼するのは、異例のケース。注目度の高さを証明する光景であった。

　対戦相手は、3月18日のセンバツ開幕を控えた智弁和歌山高。18年秋から享栄高を率いる大藤敏行監督はマッチメークの背景を語る。

「1月27日のセンバツ出場決定直後、智弁和歌山・中谷(中谷仁)監督から電話がかかってきました。『大阪桐蔭・前田悠伍君を攻略しないといけないんです。ぜひとも、よろしくお願いします！』と依頼があったんです」

　148キロ左腕・前田は昨年11月の明治神宮大会を2年連続で制し「世代No.1」と評価されている。智弁和歌山高は昨秋の近畿大会4強。享栄高・東松との真剣勝負を経て、甲子園へ士気を高めて乗り込む腹積もりだった。

投球フォームに手を加えて

「絶対に抑えたる!!　負けてたまるか!!」

　東松はこの一戦にかけていた。昨年10月の練習試合で対戦した際は、自己最速152キロをマーク。投げるたびに、成長させてくれる相手であるという。東松は登板1週間前、投球フォームに手を加えた。振りかぶるワインドアップから、セットポジションに変更。動作解析で研究を重ね、確認した上で修正した。

「右足を大きく上げて、体をひねっていたんですが、反動で(着地する)右ヒザが割れて、力が分散してしまっていました。結果的にコントロールが安定しない。変化球も抜け球が多かったんです。セットにすることで、真っすぐに立つことを意識し、打者から見れば、ボールの出どころが見づらく、力も伝わりやすくなりました。固めている段階ですので、これからもっと、出力は上がってくると思います。試合を迎えるまでは不安もありましたが、新しいフォームに変えて良かったです」

　昨秋の近畿大会3試合で20得点を挙げた強打・智弁和歌山高打線を5回1安打無失点に抑えた。課題の制球も安定し無四球。打者16人で許した走者は安打の1人のみと、ほぼ完全に封じた。「抑えないと甲子園には行けない。一つのステップとして、3人から三振を取れたのは良かったです」。東松がマークしていた一番・多田羅浩大、三番・青山達史、四番・中塚遥翔から空振り三振を奪った。

　この日の最速は147キロ。各打者はストレートに差し込まれ、カーブ、スライダー、チェンジアップも含め、完成度の高い投球を披露した(試合は享栄高が5対0で勝利)。

サウスポーには絶対、負けない

　各球団スカウトは東松の投球内容を絶賛した。

「パワーピッチャー。ストレートにボリュームがある。コントロールがつくフォームとなり、真っすぐに魅力のあるピッチャーです」(ソフトバンク・小川一夫GM補佐)

「良い投手ですね。ストレート、変化球も確認できました。期待して見ていきたい」(巨人・水野雄仁スカウト部長)

「真っすぐの強さは、トップレベルです。オフの間に体の使い方、フォームを勉強し、進化しようと努力を積んできたと聞いています。さらに上を目指そうとする姿勢は、好投手の証し。今後も追いかけていきたいと思います」(オリックス・下山真二スカウト)

「一級品です。頭一つ、二つ、抜けています。(昨秋までは)真っすぐで押していくスタイルでしたが、変化球でも空振りが取れるようになった。強力打線を相手に、ゲームを支配していた。全国的に見ても、東松投手が中心となるのでは」(中日・清水昭信スカウト)

　東松にとって、甲子園出場のチャンスは今夏が最後である。技術的には「制球率7〜8割。最速157キロを目指したい」と語り、大きな目標としては「甲子園優勝。侍ジャパンU-18代表で世界一。ドラフト1位で競合」と具体的なビジョンを語る。有言実行のエース。大藤監督が認める「チーム一の練習の虫」。東松は気になる投手に大阪桐蔭高・前田、東洋大の155キロ左腕・細野晴希を挙げる。サウスポーには絶対、負けない。芯の強い投手だ。

文＝岡本朋祐　写真＝佐藤真一