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酔いどれの鉄腕

南海1年目のキャンプがあんまりきつくて、ちょっといいこと、いや、ずるを思いついたんだ/佐藤道郎『酔いどれの鉄腕』

 

 元南海─大洋の佐藤道郎氏の書籍『酔いどれの鉄腕』が2月4日にベースボール・マガジン社から発売された。

 南海時代は大阪球場を沸かせたクローザーにして、引退後は多くの選手を育て上げた名投手コーチが、恩師・野村克也監督、稲尾和久監督との秘話、現役時代に仲が良かった江本孟紀門田博光、コーチ時代の落合博満村田兆治ら、仲間たちと過ごした山あり谷ありのプロ野球人生を語り尽くす一冊だ。

 これは不定期で、その内容の一部を掲載していく連載である。

『酔いどれの鉄腕』表紙


大学の補習があるから帰らせてください、と


 本の内容をちょい出ししている連載。

 今回は1970年、佐藤道郎さんが南海入団1年目の春季キャンプの話だ。

 南海は元監督の鶴岡一人さん時代に「グラウンドには銭が落ちている」っていう有名な言葉があった。グラウンドで汗を流し、グラウンドで結果を出すことで給料が上がるということだよね。

 その伝統もあって、下っ端ほど練習時間が長く厳しかったし、逆に結果さえ出せば好きにしていいという雰囲気もあった。

 1年目のキャンプは、あんまりきつくて、ちょっといいこと、いや、ズルを思いついた。

 マネジャーに「監督に言ってもらえますか。大学の単位が足りなくて、このままだと卒業できません。補習授業に行きたいんです」とお願いしたんだ。

 野村さんは「そうしたら単位を取れるのか」と言ってくれたんで「頑張ってきます!」と東京に帰った。

 大ウソさ。本当は100パーセント卒業できない。もともと、まったく単位が足りないからね。東京に帰ってきても、もちろん学校なんて行かない。毎日、明るいうちから仲間と酒を飲んで「やってらんねえよ、練習きつくてさ」と愚痴ってた。

 それで1週間くらいしてキャンプに戻ったら、野村さんが「おお、ミチ、どうだった?」って言うから「ありがとうございます。おかげでうまくいきました」と答えた。

 そのあと何も聞かれなかったけど、たぶん、野村さんはずっと、俺が日大を卒業できたと思っていたはずだよ。

 悪いやつだね、俺も。
週刊ベースボール編集部

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