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ホークス球団創設85周年

94年開幕投手の吉田豊彦 違和感を覚えた「福岡ドーム」で光った活躍/ホークス球団創設85周年【第1回】

 

2023年、ホークスは球団創設85周年とドーム開業30周年のダブルアニバーサリーイヤーを迎えた。ここでは「あの時のホークス、あの時のドーム」を振り返り、過去から未来へと受け継がれるホークスの歴史を紹介し、未来につながる野球の魅力を発信していく。第1回は1994年に開幕投手を務め12勝を挙げた吉田豊彦氏(現・高知ファイティングドッグス監督)に話を聞いた。

いまもつながるホークスとの縁


ドーム開業翌年の94年にキャリアハイの12勝を挙げた吉田豊彦


 高知の名所・はりまや橋から、車を西へ走らせることおよそ1時間。静かな山間にある越知町に吉田豊彦が居を構えてから、2023年で12年の月日が過ぎた。この地に独立リーグ・四国アイランドリーグプラスに所属する高知球団の練習場があり、吉田は2012年から投手コーチに就任、2020年からは監督を務め、2022年には13年ぶりとなるリーグ年間総合優勝に導いている。

 そして、いまやソフトバンクの投手陣に欠かせない一人・藤井晧哉が広島を自由契約になり、2021年に“再起の地”として選んだのが高知だった。当時、ソフトバンク3軍との交流戦でノーヒットノーランを達成した藤井が、淡々とマウンドを降りて来た姿に「あいつは、さらに『上』を見ている。それがいい」と吉田に告げたのが、吉田の南海、ダイエー時代の先輩で、当時プロスカウトチーフだった小川史(現4軍監督)だった。藤井の強気な投球を評価し、セットアッパーとして起用したのは、吉田より3歳年上の先輩で、南海、ダイエーでの現役時代をともにプレーした現1軍監督の藤本博史だ。吉田と古巣の縁は、こうやって、今も脈々と繋がっている。

 その先輩たちとともに、吉田がダイエーでプレーをしていた1993年、福岡ドームが開業した。前身の南海がダイエーに売却される前年の1987年、ドラフト1位指名された左腕にとってプロ6年目にあたり、前年の1992年には自身2度目の2桁勝利となる11勝を挙げるなど、若きエースの座を築き始めていた頃だった。中堅122メートル、両翼100メートル、2015年にホームランテラスができるまでは、高さ5.84メートルの外野フェンスがそびえ立っていた。

 その投手有利ともいえる“ピッチャーズ・パーク”だが、吉田は「器が(平和台球場と)違い過ぎて、正直に言えば、あまり好きじゃなかったんです」と明かす。「(南海時代の)大阪球場とか(ダイエーでの最初の4年間の)平和台球場のときは、バックネットからホームの間隔が近くて、距離感をあまり感じなかったんですけど、ドームに入ったときに奥行きをすごく感じて、キャッチャーまでの距離を凄く感じたんです」とそんな違和感を抱いていたというのが驚きだ。ドーム元年こそ7勝14敗だったが、開幕投手を務めた翌1994年はキャリアハイの12勝。王貞治監督が就任した1995年も8勝をマークするなど、むしろ“ドーム時代”の活躍ぶりは光っているのだ。

藤井が喫した昨季の1敗


独立リーグを経て、昨季は「MVP級」の働きぶりを見せた藤井皓哉。23年、V奪回を目指す戦いがはじまる


 ただ、南海時代の1978年からダイエー時代の1998年まで、20年連続Bクラス。低迷期のぬるい空気から脱却すべく、球界の寝業師・根本陸夫が1993、1994年に監督を務めながら、代表取締役専務、球団本部長も兼務しチームの改革に着手。1993年オフに西武とのトレードで秋山幸二、94年オフにはFAで工藤公康石毛宏典を獲得し、後任監督に世界のホームラン王・王貞治を招聘した。

「勝つことを知っている人間が必要だったと思うんです。でも僕は、それにこたえられなかった人間でした。メンタルがそういうところに追いつかなかったという不甲斐なさはありますね」

 王就任後の95年は8勝、96、97年はいずれも1勝止まりだった吉田は、98年途中に阪神へ移籍。以後はリリーフに活路を見出し、近鉄時代の03年に60試合、発足1年目となる05年の楽天でも50試合に登板。現役生活20年で619試合を投げた鉄腕の輝かしく、かつ苦い経験こそ、指導者としての「礎」でもある。

 ソフトバンクは昨季、優勝したオリックスと同じ「76勝65敗2分け」ながら、直接対決で負け越していたために、2年ぶりのV奪回を逃した。22年10月1日の西武戦(ベルーナドーム)の延長11回、西武の主砲・山川穂高にサヨナラ2ランを浴びたのは、吉田が高知で“再起への日々”を見守り続けた藤井だった。藤井が喫した昨季の1敗は、その時の黒星だ。

「絶対にずっと、あの悔しさを持ち続けて、ユニホームを脱ぐ日までやんなきゃいけないと思いますよ、晧哉はね。やっぱり奮い立たせる原動力っていうのは、自分がミスしたことなんですよ。結局は、失敗したことの方が頭に残りますし、僕は優勝した経験がないので、そんなことばっかりしかないんです。今年はだから、ホークスには絶対に優勝してほしいですよね」

 愛弟子へ贈る辛口の“提言”には、低迷期を支えた左腕が抱き続ける、今も変わらない古巣への愛情も込められている。

 ホークスでは4月2日に球団創設85周年とドーム開業30周年を記念したイベント「ダブルアニバーサリーデー」を開催する。当日は福岡ドームが開業した1993年をテーマに、当時に関連したゲストの登場をはじめ、復刻演出や復刻グッズなどを展開する。

文=喜瀬雅則 写真=BBM
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