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【高校野球】センバツ出場の慶応・森林監督が惜しみなく明かした「教育論」

 

「この一瞬をどう過ごすか」


今春のセンバツ甲子園へ導いた慶応高・森林貴彦監督は春季県大会抽選会後、特別講演を行った


 全国屈指の激戦区・神奈川。夏の甲子園に出場するためには、シード校でも7勝をしなければいけない。「神奈川を制する者は、全国を制す」と言われるほど、実力校がそろう。

 春季県大会抽選会が行われた4月6日、今春のセンバツ甲子園へ導いた慶応高・森林貴彦監督は、各校部員2人が出席した出場79チームの前で特別講演した。印象に残る言葉ばかりだったが、まずは、最後の一言を紹介する。

「神奈川は自分たちのチームが勝てばいいという監督ではなくて、県代表になれば、皆で応援する良い伝統がある。神奈川が盛り上がるように、皆でやっていきましょう!!」

 慶応高は5年ぶり10回目のセンバツ出場。甲子園に乗り込む直前には、昨秋の県大会準々決勝で勝利した東海大相模高と練習試合を実施した。県内のライバル校ではあるが、高校野球という共通の仲間意識。神奈川にはこうしたフレンドシップが根づいている。

 約20分に及ぶ講演で、森林監督は教育論を惜しみなく披露。3つのキーワードがあった。

 まずは「今を大切に」。

「仮にミスをしても、過去に戻ることはできない。先のことを考えても、未来のことは分からない。だからこそ、この一瞬をどう過ごすか。今年で50歳になる私自身も今、それを考えています」

 部員に興味を持たせる「つかみ」が抜群だった。次に、センバツでの体験談を話した。慶応高は昨夏の覇者・仙台育英高(宮城)との初戦(2回戦)で、延長10回、タイブレークの末に惜敗(1対2)している。2018年春、夏の甲子園を経験している森林監督は、前回の反省を下に、最善の準備で臨んだという。

 キーワードは「普段どおり」。

「甲子園球場というのは特別な球場ではない。プレートから本塁、塁間は一緒で、両翼95メートル、中堅118メートル。県内では等々力球場のほうが広い。WBCで大谷翔平選手が、アメリカとの決勝前に言っていましたが『あこがれの場所』と勝手に大きくしてしまうと、普段の力を発揮できなくなる。特別視しないことが大切です」

 甲子園大会における試合前のウォーミングアップは、アルプス席下の室内練習場である。狭いスペースでの練習を事前に重ね、「普段どおり」にグラウンドインすることができた。シートノックに入る前のキャッチボールにも制約(2チーム同時に30メートル。投手は40メートルほど)があるため、想定してメニューをこなしてきた。イレギュラーな展開に慣れることで「普段になる」という考えだ。

甲子園で感じた「感謝の心」


 しかし、物理的に準備ができないこともある。

「球場の景色。銀傘がありますので、野手は明らかに見え方が違います。あとは独特な雰囲気。応援の反響も違います。準備し切れないことも、元に戻るためのルーティンを用意しておけば、対処できる。そうした違った意味での準備の必要性もあらためて感じました」

 慶応高は常日ごろからメンタルトレーニングを取り入れ、どんな状況にも柔軟に対応できる強さがある。

 そして、甲子園で感じたのは「感謝の心」だ。

「開会式が雨で1時間30分遅れたんですが、内野全面にシートが引いてあり、予定時刻に合わせて多くの人に手によって整備が進んでいました。野球とは相手チームがいて試合ができますし、審判員、高野連の方、見に来ていただく観衆、取り上げていただくメディア……。いろいろな方がいて、大会が運営されている。神奈川大会においても同じことが言えますので、認識することが大事です」

 質疑応答では、出席者から質問が相次いだ。延長など接戦を制するための取り組みとして「自分たちの強みを共有しておくことが大事」とアドバイス。また、チーム運営については「チームとしてのやり方を確立することが大切。そのプロセスが大事です」と丁寧に説明した。大会開幕を2日後に控え、すべてが実戦につながり、モチベーションが高まる内容ばかり。出場79チームの代表者は抽選結果を待つ部員たちへ、最高の土産を持ち帰った。

文=岡本朋祐 写真=BBM
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