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ドーム開業30周年

世界基準の“街”で“日本一強い野球チーム”ホークスがいる意味 世界中から人々が集まって来る場所へ/ドーム開業30周年【第2回】

 

2023年、ホークスは球団創設85周年とドーム開業30周年のダブルアニバーサリーイヤーを迎えた。ここでは「あの時のホークス、あの時のドーム」を振り返り、過去から未来へと受け継がれるホークスの歴史を紹介し、未来につながる野球の魅力を発信していく。今回はドーム開業30周年に関連して、世界の観光客に向け、スタジアムを中心とした街づくりを進め、人々を引きつける世界基準の街の創造に突き進むホークスの姿を紹介する。

「ツインドーム計画」から「BOSS E・ZO FUKUOKA」へ


1993年に開業した福岡ドーム。4月17日には初の公式戦[対近鉄]が行われた


 ドーム開業は1993年だが、そもそもソフトバンク球団の前身・ダイエーは「ツインドーム計画」と呼ばれる構想を立案していた。現在のPayPayドームの横に、野球以外のコンサートやイベントができる多目的ドームをもう一つ隣接する形で建設するというプランだった。現在、ホテルは「ヒルトン福岡シーホーク」、ショッピングモールは三菱地所が運営する「MARK IS 福岡ももち」だが、ここもかつては「ホークスタウン」と呼ばれ、ダイエーが野球、宿泊、商業施設のすべてを運営する「三位一体経営」を担っていた。

 小売り革命を起こしたダイエーの創業者・中内㓛の“遺志”を、まるで受け継いだかのように、今なおこの地行浜は開発されているのだ。

「昔は、ダイエーさん一体だったんですね。ツインドームシティのことは、僕らは全く知らないです。今、ホテルはGICさん、モールは三菱地所、ドームはソフトバンクホークスが持っていて、3社は違う会社ですよ。でも、目指していた構想、出来上がりはたぶん、同じことを考えていたんだと思います。泊まれて、遊べて、買い物ができて、一日中、それ以上でもここへきて楽しんでいただける。もともとそれを描いて、中内さんが造られたんだろうと思うんです。発想は変わらないんじゃないですか?」

「BOSS E・ZO FUKUOKA」が開業して3か月後の2020年10月下旬、球団が乗り出した“エンタメビル事業”に関する取材に応じて頂いたソフトバンクホークスの代表取締役専務COO兼事業統括本部長・太田宏昭が語ったその“将来像”には、うなずけることばかりだった。

 モールのすぐ横にはタワーマンションも隣接しており、その周辺は閑静な住宅街だ。ドーム前には九州医療センターがあり、ホテルの前には博多湾に面した百道浜が広がっている。住環境としても、観光スポットとしても優れた、まさしく“総合エリア”でもある。しかも、博多港から韓国・釜山までは高速船で3時間40分。日帰りも可能な、気軽に行ける海外だ。台湾へも空路で約2時間半。ダイエーはかつて台湾で公式戦も行ったことがある。

 それらの「インバウンド」が、ターゲットの一つになる。そこで太田が挙げた2つ目のモデルは、エンタテイメントの本場・ラスベガスだった。「外国からのお客様が福岡へ来て、さてどこへ行くんだろうねと。その時間帯を『E・ZO』に振り向けてもらうおうということもあるし、あとは夜の時間帯ですよ。泊まって、夜のナイトショー。ラスベガスは、そういうのがすべて一体化されているじゃないですか?」

 これを、福岡の地に置き換えてみる。『E・ZO』で遊び、お腹を満たし、ドームで野球を見る。その後また『E・ZO』で舞台を鑑賞し、ゲームを楽しみ、お酒を飲んで、ホテルに戻る。一日を完結できる上に、福岡も満喫できる。言葉や国籍、人種の壁を超えた“世界一のおもてなし”を提供する。野球、演劇、ショー、ゲーム、グルメ、ミュージアム。これらの「アミューズメント」を掛け合わせていけば、その組み合わせはまさしく、幾通りも出てくる。簡単に言えば「野球」をやっていなくても、ドーム周辺に人々が集まってくるような仕組みを整えていくのだ。ただ、もちろん「野球」もそうした“人々を引きつける”コンテンツの1つに数えられる。

時代を予見し布石を打ち、未来予想図に向かい突き進む


ドーム開業から30年。2020年7月には「BOSS E・ZO FUKUOKA」が開業した。世界基準の「人々が集い楽しむ街」の創造にホークスは突き進む


 2020年、福岡ソフトバンクホークスは4年連続日本一を達成した。2011年からは3軍制を本格導入し、2023年には4軍制へと拡大した。その育成拠点として、福岡・筑後市に2球場、屋内練習場、寮を完備した一大育成施設も造り上げ、千賀滉大石川柊太甲斐拓也牧原大成周東佑京ら育成選手から日本を代表するスター選手へと成長させた。

 そうした育成システムを整備するための巨額投資も球界随一だろう。そうすると「金満球団だから」という非難の声も上がる。ホークスの強さが突出しすぎると、球界全体の強さのバランスが崩れてペナントレースが面白くなくなるというやっかみの声すら聞こえてくる。ただ、そうした外野の声は日本の野球界という“村社会”での理屈に過ぎない。魅力のあるコンテンツという観点から考えれば、チームの強さは「必須条件」だと太田は断言する。

「強くなきゃダメなんです。強くなくて『E・ZO』なんて造っていたら、こんなもん造ってないで補強しろ、って絶対言われるんです。絶対、チームは強くなきゃダメです。トッププライオリティはチーム。そして投資しなきゃチームは強くならないんです」

 ドームという、野球の試合に限らず、アーティストのコンサートもできる“箱”がある。「BOSS E・ZO FUKUOKA」というエンタメを集結させたビルがある。ホテルも、買い物ができるショッピングモールもありグルメも楽しめる、その世界基準の“街”に、日本一強い野球チームがあって、ドームで野球をやっている。そのことも、世界の観光客に向けた「セールスポイント」になってくる。視点を「日本」ではなく「世界」に振り向ければ、決して夢物語には聞こえない。むしろホークスは、そうなる時代を予見して布石を打ち、未来予想図に向かって突き進んでいる。

 世界中から、人が集まってくる場所――。

「ツインドーム計画」から「BOSS E・ZO FUKUOKA」へ。その30年の歴史には、人々が集い、楽しむ場所を創造するという“同じDNA”が宿っているのだ。(終)

※参考資料=「稼ぐ! プロ野球 新時代のファンビジネス」(PHPビジネス新書・喜瀬雅則著)

文=喜瀬雅則 写真=福岡ソフトバンクホークス、BBM
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