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【高校野球】4年ぶりに戻ってきた保土ケ谷名物 5回終了時に颯爽と動き回る「隼人園芸」が復活

 

リーダー役の「さあ、整備行こう!!」


5回終了時のグラウンド整備。横浜隼人高の部員たちは、手際よく作業を進める[写真=大賀章好]


 保土ケ谷名物が4年ぶりに戻ってきた。

 神奈川県大会は新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、2019年秋を最後に、各試合会場で野球部員が担当する補助員(場内アナウンスを除く)を派遣していなかった。

 春季県大会は3回戦までは試合を行う当該校がグラウンド整備を分担していたが、有料試合となる4回戦(4月22日)からは、この任務に補助員が当たる。サーティーフォー保土ケ谷球場を担当するのは、横浜隼人高だ。試合前のシートノック後、5回終了時に颯爽と動き回る「隼人園芸」が復活したのである。

 神奈川県高野連・榊原秀樹専務理事は横浜隼人高の教諭であり、元部長で現在も野球部の運営に携わる。「久しぶりですからね……。大丈夫か心配で……」と、教え子たちの動きを温かい目で見守っていたのが印象的だった。

腰を低くして、トンボを使うのがポイントだ[写真=大賀章好]


 5回裏になると、部員たちは三塁側控え室で待機。同イニングが終わると、一礼をしてグラウンドを飛び出し、三塁ベンチ横の用具室からトンボを取り出す。そして、リーダー役である小椋大優(2年)の「さあ、整備行こう!!」の掛け声と同時に、各ポジションへと散っていく。腰を低くして、掛け声をかけながら、淡々と作業を進める。補助員はグラウンド整備以外にも切符売り場のサポート、入場ゲートでの入場券切り、ファウルボール拾い、試合後の清掃と役割は多岐にわたる。

 小椋の父と、おじは同校野球部OB。内野手で試合出場を目指しているが、現在は「レギュラーメンバーが勝利に近づくように、全力でサポートする」と、裏方にプライドを持っている。技術では及ばないかもしれない。だが、支える側で誰にも負けない取り組みを実践することが、チーム力になると信じている。

 グラウンド整備は本塁付近に5人、一塁、二塁、遊撃の定位置に3人、三塁の定位置に2人が配置。マウンド付近のブラシが1人、内野全体のブラシが2人。本塁付近はひと段落すると、一塁、三塁に1人ずつ分かれてライン際をならす。他の3人はライン引きに回って、打席付近をきれいに整えていく。

「君たちが一生懸命やれば、試合にも勝てる」


リーダー役の横浜隼人高・小椋大優はプライドを持って任務に当たる[写真=BBM]


 4分30秒。手際の良いグラウンド整備だった。かつてはスタンドの観衆から、大喝采が沸き起こったほどである。神奈川県高校野球の運営を象徴とする一コマ。従来の光景が戻ってきた!! と実感するシーンだった。

 小椋の自己採点は80点とやや手厳しかった。

「声があまり出ていなかった。活気も足りなかったと思います。来週も2日間(準々決勝)ありますので、しっかり任務を遂げたい」

 この日、横浜隼人高は別会場で4回戦(対平塚学園高)を戦っていた。自校の試合を見られないケースがあるのが、補助員の宿命。榊原理事長は試合前、部員にこう告げた。

「君たちが一生懸命やれば、試合にも勝てる」

 ゲーム合間に、スマホで試合速報を確認することが許された。横浜隼人高は逆転勝ちで8強進出。野球の神様は見ていた。保土ケ谷球場から等々力球場へ、補助員25人の熱い思いが届いたのである。

 グラウンド整備の評価について、榊原理事長は「良くも悪くも、初めてですから。これから2年生が1年生に、ノウハウを伝えていってほしいと思います」と話した。先輩から後輩へと受け継がれる「隼人園芸」の妙技。彼らは、公式戦で「披露」しているのではない。いつも同校のグラウンドで実践していることを、公式戦会場でそのまま出しているだけ。だからこそ、高校球児らしいキビキビとした姿勢に、見ている者を熱くするのである。

文=岡本朋祐
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