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ホークス球団創設85周年

城島健司が語る1999年王ダイエー初優勝「王監督とぶつかり合った集大成。涙がぼわーっと……」/ホークス球団創設85周年【第2回】

 

2023年、ホークスは球団創設85周年とドーム開業30周年のダブルアニバーサリーイヤーを迎えた。ここでは「あの時のホークス、あの時のドーム」を振り返り、過去から未来へと受け継がれるホークスの歴史を紹介し、未来につながる野球の魅力を発信していく。第2回は1994年ドラフト1位でダイエー(現ソフトバンク)に入団。99年に自身初の全試合出場を果たしダイエー初の日本一に貢献した城島健司氏(現・球団会長付特別アドバイザー)に話を聞いた。

王の穏やかな笑顔


師である王を語る城島の口調はいつも熱い


 城島健司の「感涙の記憶」は王貞治の「穏やかな笑顔」とともにある。

「最後の1球を捕るときですよ。最後1点差だったんですよね、まだ。でもパッとベンチを見たら、めっちゃ笑っていたんですよ、監督が。王さんって勝てないときって眉間にしわが寄って……みたいな、そういう映像とか表現ばかりだったじゃないですか。その王さんが最後の1球のときニコッて笑っていたんです。僕、その瞬間にもう涙が……。サイン出して三振だったんですけど、よく最後捕ったなというくらい目の前かすんでいたんですよ。ホントに号泣していたんです」

 1999年9月25日福岡ダイエーホークス初優勝。前身の南海から球団を買収して11年、日本初となる開閉式の屋根を持つ福岡ドーム(現・福岡PayPayドーム)の誕生から6年、世界のホームラン王・王貞治にとっては監督5年目、さらに王の監督就任直後のドラフト会議で1位指名された城島健司にとってもプロ5年目での“初体験”だった。

「あれがなければ次もなかったんです。みんなが待ち望んだ優勝だったと思うんですね。そこに立ち会えたのは僕の野球人生のキャリアの中で今でも『トップ3』くらいに入ります」

 99年以降、2003年リーグMVP、ベストナイン6度、ゴールデン・グラブ賞8度を獲得。強打の捕手として攻守でチームを支え06年から4年間はマリナーズでプレーし日本人捕手として初のメジャー・リーガーとなり、第2回WBCでは日本代表の四番打者、正捕手として世界一に導くなど、幾多の栄光を球史に刻んできた希代の名捕手が、99年の「初優勝」をこう表現したことにちょっと驚かされた。その道のりを陸上競技の三段跳びに例えれば、初優勝という「ジャンプ」に至る「ホップ」と「ステップ」がある。

君たちに優勝させてあげたいんだ


95年豪州キャンプ。初の全体ミーティングで王が掲げた「優勝」の言葉を城島は鮮明に記憶している


 最初の「ホップ」はプロ野球選手として初めての95年豪州キャンプだった。

「君たちに優勝させてあげたいんだ」

 当時のダイエーは前身の南海時代まで遡ると17年連続Bクラスでうち7度が最下位だった。初の全体ミーティングで「優勝」を掲げた王の言葉がその場にすっと溶け込んでいかない“違和感”を18歳のルーキーですら感じ取れたという。

「何十年優勝していないんですから。その僕らに『優勝ってすごくいいモノなんだ』って、最初のミーティングでおっしゃられたのを鮮明に覚えています」

 しかし「世界のホームラン王」ですら、その“負け慣れたチーム”を変革することは決して簡単ではなかった。最下位に終わった96年はファンが試合後のバスに生卵を投げつける過激な行動を見せたり、スタンドには「王辞めろ」の横断幕が掲げられたりすることもあった。「俺だったら先頭に立って文句言ってるけどな」。城島の怒りも当然だろう。それでも王は城島だけでなく小久保裕紀ら次代のホークスを担う若手選手たちに、こう“諭した”のだという。

「この人たちが勝ったら一番喜んでくれるんだ。チームが優勝したら変わってくれるのが彼らなんだ」

 その度量の深さを城島は「神です」と言い、自らのプロ野球選手としての言動、意識、立ち振る舞いは「すべて王監督に作ってもらった」と強調している。

 次なる「ステップ」は97年プロ3年目のことだった。前年ウエスタン・リーグの当時新記録となる25本塁打を放ち強打の大型捕手としての片鱗を見せていた城島を「レギュラー」で使うという決断を王は開幕前、城島に告げたのだ。

「お前を使うということはチームを優勝させるためだ。優勝するためにお前がマスクをかぶるんだよ」

 強いチームには信頼できる捕手がいる。「短い言葉だったんですけど、今考えるとキャッチャーとしては重い言葉であり監督の覚悟ですよね」。その年120試合に出場し打率.308でリーグ5位。21歳45日という戦後生まれでは最年少でのオールスターファン投票1位選出を受けるなどスターへの階段を着実に上っていく。そして翌98年残り5試合でダイエーは、上位チームの結果次第では優勝の可能性も残されていたが、その5試合で5連敗を喫し勝率5割の3位タイに終わってしまった。

「5連敗して1勝もできなかった。落ち込むだけ落ち込んだんですが、その後にふと残り5試合まで優勝を争えるチームなんだというのは、優勝ってそんなに遠くないんじゃないか。そんな気になりました」

博多の街中で歓喜への期待がヒートアップ


最後の打者を空振り三振に仕留め、歓喜の瞬間を迎えた城島とペドラザ


 そして「ジャンプ」の「1999年」がやって来る。5月9日に首位に立ったホークスは、7月7日にいったんロッテに明け渡したものの翌8日に奪回、そこから再びトップをキープし続けた。福岡を本拠地とした西鉄ライオンズ(現・埼玉西武ライオンズ)が最後に優勝したのは1963年。36年ぶりの歓喜に向かってひた走るホークスをまるで後押しするかのごとく博多の街中に歓喜への期待と情熱がヒートアップしていくのを城島はひしひしと感じていた。遠征から帰るたび博多駅の改札前が、福岡空港の到着口が、鈴なりのファンで埋め尽くされていた。

「すごくいっぱいの人がいつも出迎えてくれたんです。罵倒とかじゃないですよ。『頑張れ』『絶対優勝できるぞ』って励ましてくれた。そのファンがだんだん多くなっていくわけですよ、空港でも駅でも。あの感覚ってなかったですよ」

 その一体感は「地域密着」の球団としての存在感でもある。

「僕らは“地方球団の走り”じゃないですか。北海道で日本ハムもできたり、それからも出てきますけど福岡が最初だと思うんです。もともと野球が強い街で西鉄というすごいチームがあって歴史がある中で一時期、福岡からプロ野球が離れたあとダイエーホークスが戻って来た。99年ほど街の人が喜んでくれた優勝っていうのはないんじゃないかなと思うし、それからあれ以上の優勝は経験していないです」

 129試合目となる日本ハム戦はデーゲームで西武が敗れ優勝マジック「1」として臨んだナイターだった。同点の8回に井口が勝ち越し弾。5対4として9回に突入すると、セットアッパーの篠原貴行が一死を取ったあと守護神のロドニー・ペドラザが登場した。二死とすると続く代打の藤島誠剛をカウント1ボール2ストライクに追い込んだ。あと1球だ。城島が熱く語る“涙の記憶”は、そのときの「王の笑顔」と結びついている。グラウンドから見ると一塁側ベンチの右端。控え選手の名前が記されたホワイトボード前の定位置に立っていた王が少し上目遣いにバックスクリーン方向に目を向けた。手塩にかけて育ててきた選手たちが歓喜の瞬間を迎える。指揮官としての充実感がその“穏やかな笑み”に満ちていた。

「これだけは言えると思うんですけど、僕は監督と一番このチームで話したと思っています。キャッチャーってやっぱり監督の考え方を一番理解しなきゃいけない。この突き当たりを左に行くのか右に行くのか、事前に分かっておかないといけないと思いますし、監督が右に行くなら先頭で僕が右に曲がっていかないといけないようなポジションです。そのために怒鳴り合ってケンカをしたこともあります。でも次の日試合に使わないとか、お前は生意気だって言われるようなことも一切なくチームを強くしていかなきゃいけない上で一選手と一監督がぶつかり合って話を聞いてくれた。そういう集大成が99年なんです。僕の中では“あの笑顔”に集約されていたんです。約束を果たしたみたいな。もうなんかいろんな思いが……。ものの1分もしないうちに涙がぼわーっと……」

 城島にとっても初の全試合出場、初のベストナイン、初のゴールデン・グラブ賞とまさに“大ジャンプ”の99年になった。

「今は言い方が悪いかもしれないけど、球団にいる僕らもファンの方々も優勝するのが当たり前みたいなチームになっていますが、99年の前までは20年くらいBクラスだったんですから。ほんの20年前そんなチームだったというのが今は考えにくいですよね。でも王さんが全部やってくれた。今のチームを作ったのも間違いなく王さんですし、福岡に球団の幹を作ってホークスの野球というのを作ったのは王さんなんです」

王イズムの伝承


1999年9月25日。初めて博多で宙を舞った王監督。ホークスの歴史は王貞治の歩みとともにある


 20年、城島は「球団会長付特別アドバイザー」として球団に復帰した。12年阪神で現役引退後、しばらく球界から遠ざかっていた男が「そろそろ帰って来い」という王からの“厳命”を受け古巣へと戻って来たのだ。ホークスの歴史は、王貞治の歩みとともにある。そう言っても過言ではない。「あの日の笑顔」の記憶とともに、城島は“歴史の継承者”として、王イズムを伝承していくという自覚が溢れている。だから師を語る城島の口調は、いつも熱いのだ。

文=喜瀬雅則 写真=佐々木萌、BBM
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