周囲が自然と後押しする練習の虫

　明大が東京六大学リーグ戦で3季連続43度目のリーグ制覇を決めた。早大2回戦(5月14日)を連勝で、開幕から4カード連続の勝ち点4(8勝1敗1分)をマーク。立大との1カードを残し、神宮の杜で歓喜に沸いた。

　一塁ベンチ前。明大・田中武宏監督はこの日、記録員としてベンチ入りした石田朗投手兼マネジャー(4年・明治高)と固い握手を交わして、労をねぎらった。

　試合後、記者席裏で行われた優勝会見で、石田マネジャーは田中監督のすぐ横に控えていた。一連の取材対応後、ブレザーを着た石田マネジャーに次戦への意気込みを聞いた。「あるつもりで、準備します！」と背筋を伸ばして、球場を引き揚げていった。

　石田マネジャーは右投手として、明大野球部に入部した。2年春、秋のフレッシュトーナメント(2年生以下でチーム編成)で登板。田中監督は目を細める。「彼が投げると、応援がすごいんですよ！」。自然と周囲が後押しする、練習の虫なのだ。

きめ細かい「広報担当」

　田中監督は3年秋の途中に選手兼マネジャーを打診した。主務・森裕規(4年・滝川高)の負担を軽減させるため、機転の利く石田の力が必要であると考えたのだ。部内では「広報担当」。報道陣の窓口として手腕を発揮した。グラウンドでは手際よく取材対応。マネジャーとしての絶対条件である「目配り、気配り、心配り」に加えて「ほうれんそう(報告・連絡・相談)」も完璧。石田マネジャーのきめ細かさは、感心するばかりだ。選手目線の強みを生かし、裏方としてチームに貢献する一方で、投手としての練習も地道に続けてきた。

　田中監督は春のリーグ戦開幕前に「朗を投げさせるために、野手には10点取れ、と言っている。可能性？　十分ある」と語っていた。

　石田は東大との開幕カード2試合を、背番号41でベンチ入り。試合展開によって登板の機会があったが、そのタイミングはなかった。

　第6週・早大戦を前にした練習期間、石田は「申告制」であるシート打撃や紺白戦(他チームで言う紅白戦)に登板し、結果を残している。最速127キロ。スピードで勝負するタイプではなく、カーブ、カットボール、ツーシーム、チェンジアップをコースに投げ分けるのが持ち味だ。鈴木文雄コーチは言う。

「丁ねいに野球をやる子。低めにボールを集める。同じコースにストレートと変化球を投げて、ピッチングを工夫しています。抑えているのは偶然ではなく、必然の投球。紺白戦後のミーティングでも、投手陣には『朗の考えを参考にしなさい』と言っています」

　マウンドでの精密ぶりは、マネジメントにも生かされている。鈴木コーチは続ける。

「試合前の指示も細かいんです。早大2回戦は国立競技場で花火(サッカーJリーグ)が打ち上がることになっており、事前に時間を選手たちに伝えて、周知徹底させていました。これも彼の人間性。グラウンドでは来客者への対応も丁ねいです。大谷翔平選手はMLBにおける二刀流で素晴らしいですが、石田も2つのことをきっちりやっている。学校では教職も履修しており、教育実習も控えています。学校生活も全力を尽くす立派な人材です」

計り知れない貢献度

　明大は今春、5月20日からの立大との最終カードを残している。リーグ戦の登録25人で、ベンチ入り投手は7人ほど。石田は当落線上の立場であり、伝統の紫紺のユニフォームを着るチャンスは十分にある。田中監督は言う。

「(主務の)森が大変だったチーム運営の部分を、石田が支えてくれた貢献度は計り知れない。今回の早大戦から記録員としてベンチ入りさせましたが、選手同様、ゲームに入っており、内容のある指示、良い声を出していた」

　選手としての起用については、こう語った。

「立教戦の登板？　もちろん、戦力として、その可能性はあります。石田がベンチ入りして、異を唱える部員は、誰一人としていないです。それだけの信頼感がある学生です」

　すでにリーグ優勝を決めているが、田中監督は「東京六大学は対抗戦。立教さんから勝ち点を取ることを目標とし、徹底してやりたい」と、最終カードもベストの布陣で戦うことを明言している。仮に石田がマウンドに上がれば、ベンチ、控え部員が陣取る応援席のボルテージは最高潮に達するのは間違いない。「あるつもりで、準備します！」と語った石田の目は、立大戦に向いていた。努力を重ね、結果を残してきた選手にチャンスを与えるのが田中監督のポリシー。石田の雄姿は見ている人に、勇気と感動を送り届けるはずだ。

文＝岡本朋祐　写真＝矢野寿明