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【大学野球】明大伝統の「人間力野球」を体現した選手兼マネジャー石田朗の“19球”

 

三塁応援席は大盛り上がり


選手兼マネジャーの明大・石田が立大2回戦で神宮初登板。1回無失点に抑えた


 明大は早大との第6週で連勝し(5月14日)、立大との1カードを残して85年ぶりの東京六大学リーグ3連覇を決めていた。歓喜も束の間。明大・田中武宏監督は早大2回戦後に「六大学は対抗戦」と繰り返し、対戦5校すべてから勝ち点奪取、つまり、完全優勝をかけた立大との第7週に集中していた。

 立大1回戦を1対0で先勝して迎えた2回戦(5月21日)。田中監督は「(石田)朗(あきら)をマウンドに上げるぞ」と、ナインを鼓舞していた。石田朗(4年・明治高)は3年秋の途中から、選手兼マネジャーとしてチームに貢献してきた。練習の虫であり、裏方としても尽力。激しいチーム内競争の中で今春、初めて25人のメンバー入りを果たした。東大との開幕カード2試合、そして、立大1回戦でブルペン待機も、登板するタイミングは訪れなかった。

明大・田中監督は球審に交代を告げると、新たなボールを受け取り、4番手の石田に手渡す粋な計らいを見せた


 立大2回戦。ついに、出番がきた。試合は序盤から明大優位の展開。8回表、明大の攻撃で、投手の打順に代打が告げられた。8対3。このイニングが終わると、三塁ベンチの田中監督は動く。三番手で右腕・石田を起用した。

 控え部員が陣取る三塁応援席は、この日、一番の盛り上がりである。ブルペンから走り出した背番号41・石田を、大きな拍手でマウンドへ送り出した。

 先頭打者は右翼ポール付近の大飛球だったが、1年生・榊原七斗(報徳学園高)が好捕。次打者はショートライナー。ボールは遊撃手・宗山塁から主将の三塁手・上田希由翔(4年・愛産大三河高)へと渡り、上田は丁寧にこねて、マウンドの石田へ戻した。3人目は右前打を許す。二死一塁。次打者の左中間への打球を、左翼手・飯森太慈(3年・佼成学園高)がスーパーキャッチ。神宮デビューを、無失点で終えた。19球。三塁応援席の控え部員は一球、一球に反応し「オーッ!」と、大歓声で石田の背中を押した。人望の厚さを証明する、心温まる光景だった。120キロ台のストレートと、90キロ台のカーブを交えた緩急自在の投球術が冴えた。石田のリズムの良い投球が打線に好影響を与え、9回表に3点を追加。明大は11対3で立大に連勝し、勝ち点5(10勝1敗1分)の完全優勝を達成した。

「自分の力以上のものが出せたと思う」


8回裏の1イニングを無失点で三塁ベンチに戻ると、明大ナインたちが笑顔で出迎えてくれた。右横にいる主将・上田の表情が印象的


 田中監督は試合後、石田の投球に対して「結果を出してくれて、うれしく思います」と笑顔を見せた。また、ネット裏で観戦した鈴木文雄コーチも感無量の様子だった。

「常日頃から練習をしっかりやっている朗の姿勢を、全部員が知っていますから、守っている選手も、何とかアウト一つを取るのに必死。私の周辺で見ている観衆の方々が『なぜ、(完全優勝を決める)9回最後の守りでもないのに、あんなに盛り上がっているの?』と。特別な場所でも、普段と変わることなく、マウンドでは良い姿を見せてくれました」

 石田は野球部を通じてコメントを発表。感謝を口にした。

「守ってくれている選手、ベンチ、スタンドの声に後押しされて、自分の力以上のものが出せたと思う」

 多くの人の支えがあって実現した、神宮初登板。その背景には4年間、真摯に取り組んできた努力があった。石田の19球は、明大伝統の「人間力野球」を体現したと言える。爽やかな空気が、神宮の杜を流れていた。

文=岡本朋祐 写真=田中慎一郎
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