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酔いどれの鉄腕

3人目が美人だと、最初から、その美人を見たときより、ずっと美人に見えるだろう。ピッチングも同じさ/佐藤道郎『酔いどれの鉄腕』

 

 元南海-大洋の佐藤道郎氏の書籍『酔いどれの鉄腕』がベースボール・マガジン社から発売された。

 南海時代は大阪球場を沸かせたクローザーにして、引退後は多くの選手を育て上げた名投手コーチが、恩師・野村克也監督、稲尾和久監督との秘話、現役時代に仲が良かった江本孟紀門田博光、コーチ時代の落合博満村田兆治ら、仲間たちと過ごした山あり谷ありのプロ野球人生を語り尽くす一冊だ。

 これは不定期で、その内容の一部を掲載していく連載である。

心臓が強くなる方法を教えてやろうか


『酔いどれの鉄腕』表紙


 本の内容をちょい出ししている連載。近鉄のコーチ時代、吉井理人を先発させた話のあと。

 俺自身、先発やって分かったことは多かった。長いイニングになると全球全力とはいかない。しかも、抑えは打たれたらすぐ交代が多いけど、先発は2、3点は我慢してもらえるから、いろいろ試せるよね。

 軽く投げて抑えるときだってある。慣れてくると、「全力で投げて打たれても腹立つし、腹八分で投げようかな」と思って、目いっぱいは、ここぞのときだけにした。実際、遅い球を入れることで、速い球がさらに速く見えたりもするしね。

 ピッチャーって、そういう理屈が頭では分かっていても、元気なときは、なかなか割り切れず、ついついむきになって投げてしまうんだよね。特に自分の球が速いと思っているやつほど、なかなか遅い球を投げられない。怖いんだろうね。

 ピッチングは駆け引きなんだ。顔は全力で、力は八分でもいい。インコースに投げて相手が怒っているとき、「すみません」とペコペコ謝りながらまた同じところに投げたり、「なんでその程度で怒るんだ!」とカッカしたふりをして言い返しつつ、まったく別のところに緩い球を投げたりね。

 実際、テンポを変えたり、遅い球、変化球を使って、ごまかしながら2ストライクに追い込めば、すごく楽になる。コーチ時代、俺はよく選手に、「女性が3人、向こうから歩いてきたとするよね。最初の2人はそれほど美人じゃなく、3人目が美人だと、最初からその美人を見たときより、ずっと美人に見えるだろう。ピッチングも同じさ」って言っていた。

 昔はもっと直接的に言ってたけど、女性の読者もいると思うから、そこはうまく書いてよ。うちの店は女性も大歓迎だしね。

 冗談ばっかり言う、ふざけたコーチだと思ってたやつもいただろうね。焼き肉屋に連れて行って、「お前、本当にノミ心だな。心臓が強くなる方法を教えてやろうか」って言って、「何ですか」って聞かれると、「心臓を食え。ハツだ」って言ったこともある。飲みに行って堅苦しいこと言っても仕方ないだろ。

 でもさ、先発の評価も難しいよね。昔は、先発は完投しなきゃダメみたいな感じがあった。実際、ベンチからしたら、ほかの投手を休ませられるし、完投が一番ありがたい。ただ、そうは言っても、5回を1、2点で抑えてくれるだけでも随分助かるんだ。

 今はクオリティースタート(6回以上自責点3以内)とか、いろんな評価があるけど、昔は勝ったか負けたかだけだったからね。先発は勝ち星がなきゃ給料が上がらなかった。

 ロッテのコーチをしていたとき、フロントに「先発のピッチャーが5回を2点以内で抑えたら勝利投手じゃなくても0.5勝したことにしてください」と言ったことがある。4つあれば2勝ね。そのときは「分かった」と言ってくれたけど、オフになったら選手が「ミチさん、0.5勝になってないですよ」と愚痴ってきた。

 聞きに行ったら「評価はしている」と。評価はしても金にはならんということらしい。
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