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【大学野球】身長163センチ、体重61キロの小兵、明大・飯森太慈が首位打者を獲得できた理由

 

「一つの力を信じて練習」


今春の東京六大学リーグ戦で首位打者を獲得した飯森は、ブロンズ像を手にした[右は指導してきた明大・鈴木コーチ]


 163センチ61キロ。明大の小兵・飯森太慈(3年・佼成学園高)が神宮球場でプレーする上での原動力は「その中で、どれだけ戦っていけるか」と胸を張る。反骨心が支えである。

 2020年夏。新型コロナ禍で甲子園出場をかけた地方大会が中止となった。当時3年生の飯森は大学進学において、明大を志望。同校からは、毎年のように指定校推薦入試で明大へ入学する背景があり、飯森も同ルートを目指していた。しかし「(進学したメンバーは)試合に出られていない。相当な覚悟が必要」と、あと一歩を踏み出せずにいたという。

 3年夏。甲子園を目指す大会は中止となったが、飯森は東京都高野連主催の独自大会にすべてをかけた。佼成学園高は準優勝を遂げた。

「この結果を持っていけば、(明大で)やる資格があるのかな」

 甲子園経験者が名を連ねるスポーツ推薦入試ではなく、指定校推薦入試で明大に入学した。

 競争の激しい明大で、自らが生きていく道は何か。入部後のフィジカル測定で明確となった。30メートル走で、全体トップの数字をたたき出したのである。50メートル走5秒9の俊足として騒がれた2学年上で、昨年の主将・村松開人(現中日)の数字を上回ったのだ。

「1年生のときはCチームでしたが、一つの力を信じて練習していました」

 1989年秋に首位打者を受賞した明大・鈴木文雄コーチは明かす。

「足があり、下級生時代から『ひょっとしたら首位打者を取るのでは』という話をしていたんです。始動する際に上に上がっていたグリップの使い方を改良したのが、打撃開眼の一因です。とにかく、よく練習をします」

 驚愕の足は、明大・田中武宏監督の目にも留まった。指揮官自身も大学時代は脚力と守備力でアピールし、島岡吉郎元監督から評価された立場だけに、飯森の良さを理解していた。

 2年春に代走要員としてベンチ入りすると、同秋にはレギュラーを奪取し、リーグトップの9盗塁をマークした。打率.225と打撃に課題を残し、一冬をかけてレベルアップ。今春は打率.426で初の首位打者を獲得した。50メートル走5秒8の俊足を武器に、今春もリーグトップの7盗塁を記録している。

家族、恩師の支えも力に


 シーズン途中には母校・佼成学園高のグラウンドまで足を運び、立大OBの藤田直毅監督、明大OBの松岡功祐コーチ(元大洋、元明大コーチ)からアドバイスをもらい、原点に返った。初タイトルの背景には家族、恩師の支えがあったという。

「開幕する前は、こんなに打てるとは思っていませんでした(20安打)。率直にうれしい」

 好きな選手は西武の内野手・滝澤夏央だ。関根学園高(新潟)から22年育成ドラフト2位で指名され、1年目途中に支配下登録。2年目の今季はプロ初本塁打を放った。164センチながらNPBで活躍している姿に、飯森は勇気をもらっている。

 6月5日には全日本大学選手権が開幕する。明大はエース・森下暢仁(現広島)がいた2019年以来の日本一を狙う。飯森は「自分の足を使っていきたい。きれいなヒットを打つイメージはない」と、自らの持ち味を貫く構えだ。

「二番・左翼」はレフトにおいても守備範囲が広く、どんな打球にも追いつく。田中監督は「風、太陽の位置からも、神宮ではレフトの外野守備が一番、難しいんです」と全幅の信頼を寄せて、起用している。スピードスターが慣れ親しんだ・神宮の杜で躍動する。

文=岡本朋祐 写真=矢野寿明
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