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酔いどれの鉄腕

「野村克也さんが抗議で飛び出したんだけど、そのとき手にタバコを持っていて、慌てて戻って来たよ」/佐藤道郎『酔いどれの鉄腕』

 

 元南海─大洋の佐藤道郎氏の書籍『酔いどれの鉄腕』がベースボール・マガジン社から発売された。南海時代は大阪球場を沸かせたクローザーにして、引退後は多くの選手を育て上げた名投手コーチが、恩師・野村克也監督、稲尾和久監督との秘話、現役時代に仲が良かった江本孟紀門田博光、コーチ時代の落合博満村田兆治ら、仲間たちと過ごした山あり谷ありのプロ野球人生を語り尽くす一冊だ。これは不定期で、その内容の一部を掲載していく連載である。

決め事をつくれば選手が迷わない


『酔いどれの鉄腕』表紙


 本の内容をちょい出ししている連載。今回は南海時代の野村克也さんとの話だ。ちなみに本の売れ行きがそれなりに好調で、もう少しで在庫がなくなり、重版らしい。皆さん、よろしくお願いします!

 今は全員がフルスイングみたいな野球が多いけど、あれじゃ二線級はめった打ちにできても、本当にいいピッチャーが出てきたら何もできなくなる。

 南海は違った。伝統的に職人的なバッティングができる選手がたくさんいたから、野村さんの野球に合わせやすかったのもあるんだろうね。

 興味があって野手のミーティングもよく聞いていたんだけど、ロッテの村田兆治が手がつけられないくらいすごかった時期に、野村さんが「お前たちは村田の真っすぐを待ってフォーク、フォークを待って真っすぐなんて絶対に打てない。どっちかに決めていけ。間違ったらゴメンなさいで帰ってくればいいんだ」と言っていた。

 そのミーティングのすぐあとだと思うけど、桜井輝秀が追い込まれてからセンター前にサヨナラヒットを打ったことがあった。このときはフォークだけ待っていたという。チームが決め事をつくれば選手が迷わないんだ。これも大事だよね。個人じゃなく、チームで攻略していくのが南海だった。

 1975年に阪急に入った山口高志の真っすぐはすごかったけど、野村さんは「高めは打つなよ」とよく言っていた。見ていると、高めはボール球を振ってることも多かったからね。

 けど、あとから聞いたら「ミチ、あれは失敗したんや。高めはあかんぞ、と言うと無意識に高めがインプットされて、そこに意識が行ってしまう。それより低めを打てよ、と言ったほうがよかったんだけどね」と言っていた。

 なるほどなと思った。データだけでなく、伝え方も大事なんだなって。それは俺もコーチ時代、参考にさせてもらったよ。

 ブレイザー(ヘッドコーチ)がいるから、野村さんは攻撃中のベンチではほとんど何もしなかった。あれ、いないなと思うと、バットケースの後ろで、タバコを吸っていた。昔はベンチの後ろに灰皿があって、試合中でも、みんな吸ってたからね。あの人は酒は飲まないけど、タバコとコーヒーは大好きだったんだ。

 一度、ホームのクロスプレーで明らかにセーフなのにアウトとされたことがあった。そしたら一塁側のベンチから「なんだ!」って野村さんが飛び出したんだけど、そのとき手にタバコを持っていた。俺たちがベンチから「監督、監督!」って必死に呼び止めたら、ハッと気づいて、ベンチに戻ってタバコを捨ててからまた抗議に出ていたよ。

週刊ベースボール編集部

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