週刊ベースボールONLINE

高校野球リポート

【高校野球】法政二を破って5回戦進出の市ケ尾 なぜ激戦区・神奈川で普通科の公立進学校が躍進したか

 

球数制限を設定し、複数投手制を実現


市ケ尾高は法政二高との神奈川大会4回戦を制し、昨夏を上回る5回戦進出を決めた


 7対6で迎えた9回表二死三塁。法政二高・内田悠人(2年)が右中間方面へ打球を打ち上げた。市ケ尾高の中堅手・高槻琉聖(3年)は一歩目を切ろうとしたところで足がつり、その場でうつ伏せに倒れ込んだ。右翼手・古川太陽(2年)が捕球して、事なきを得た。

 猛暑の中、すべてを出し尽くした市ケ尾高が神奈川大会4回戦(7月16日)を突破し、昨夏を上回る5回戦進出(16強)を決めた。市ケ尾高は1対1の5回裏に打者11人で一挙6得点。一方的な展開になったかと思われたが、7回表に法政二高の打者11人の反撃で5失点し、1点差にまで迫られた。右サイド右腕の先発・木澤卓也(3年)が7回途中まで力投。左腕・原田琉成(2年)がピンチを広げたものの、三番手の右腕・堀川爽馬(3年)が踏ん張った。

 市ケ尾高・菅澤悠監督は言う。

「ようやく、ここまでたどり着きました。昨年とは違って1年間、この基準で野球をやってきた。昨秋の段階でも、昨夏のチーム力を上回っていた。選手たちはもう、私の手を離れています。7回裏にスクイズを仕掛けたんですが(失敗)、監督は余計なことをしないほうがいい。9回の守りは生徒たちに任せていました。私はベンチに座っていただけです」

 市ケ尾高は昨春、県大会4回戦進出(16強)により、創部初の第3シードをつかんだ。今春も県大会4回戦進出により、2年連続の第3シードを奪取。無我夢中だった昨年とは異なり、常に意識し、裏付けのある取り組みの中での「16強」は、意味合いが違った。

 激戦区・神奈川で普通科の公立進学校がなぜ、躍進したか。根底には菅澤監督の研究熱心な姿勢にある。時間があれば野球に限らず講演会、セミナーに参加。自身の目、耳で得た知見を、現場へ落とし込む。自らで築いたネットワークを駆使し、外部指導者も依頼。チームコンサルトに関しても、部外者の目から率直な意見をもらい、自らも聞く耳を持つ。独自の「市ケ尾ピッチスマート」により球数制限を設定し、複数投手制を実現。菅澤監督が実践する最先端のマネジメントに、考える力のある生徒がこたえる。双方の信頼関係が軸にあり、ここ数年の積み上げが形となった。

5回戦で慶応と対戦


サイド右腕のエース・木澤が7回途中まで好投した


 目標は「県のベスト16に勝ち切る」。抽選によっては、早い段階で強豪校と対戦するケースも多々あるが、市ケ尾高では「ステージ」ではなく「レベル」を目標設定してきた。

 第1シード・慶応高との5回戦ではまさしく「16強」の戦いである。そこで「市ケ尾ピッチスマート」に直面する。菅澤監督は言う。

「今日の木澤は106球。中1日で迎える5回戦では投げられません。100球を超えているので、ウチのピッチスマートからいけば中4日。勝つためには頭からでしょうが、こちらから『投げろ!!』とは言えません。判断は木澤本人に任せます。ただ、率直な思いとしては、敗戦処理で投げさせることだけはしたくない。彼の場合は、1年夏から投げている。エースとしての敬意もあります。どう判断するか……」

 試合後、木澤に聞いてみた。

「この状態で、チームの勝利に貢献できるか。最大限のパフォーマンスを出すのは難しいと思います」。菅澤監督の意向を伝えると、一瞬だけ表情を崩したが「今の段階では、僕の口からは言えません。コンディションを整えることだけを考えていきたいです」と答えた。

 負ければ終わりのトーナメント。市ケ尾高は2021年秋の地区予選で、慶応高に5回ノーヒットノーランで敗退(0対10)した苦い経験がある。背番号10を着けた木澤は二番手として救援しており、リベンジしたい思いが強い。

 菅澤監督は仮に木澤を先発で起用しても、将来を見据え、決して無理はさせないと明言する。「(チーム全体も)余力はない。リミットにきている」と言いながらも「一泡、吹かせたい」と、意欲を語る。法政二高との4回戦で好投した堀川を、指揮官は木澤との「ダブルエース」として期待。センバツ出場校で、今春の県大会優勝校・慶応高との5回戦は、市ケ尾高にとって試金石となる大一番となる。

文=岡本朋祐 写真=BBM
週刊ベースボール編集部

週刊ベースボール編集部

週刊ベースボール編集部が今注目の選手、出来事をお届け

関連情報

みんなのコメント

  • 新着順
  • いいね順

新着 野球コラム

アクセス数ランキング

注目数ランキング