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『川淵三郎 キャプテン! 日本のスポーツ界を変えた男の全仕事』

【特別対談】川淵三郎×栗山英樹 W杯とWBCが見せたシン・スポーツの力<3>川淵さんが語る、栗山英樹さんと森保一監督の共通点は/『川淵三郎 キャプテン! 日本のスポーツ界を変えた男の全仕事』

 

栗山監督と森保監督に見た新時代のリーダー像


2人の対談はスポーツ界全体、指導者論まで多岐に渡った


 Jリーグ、日本代表、日本サッカー協会会長、バスケットボールの各々において、固定概念に縛られない発想と行動力で周囲を動かし、日本のスポーツ史を変えてきた川淵三郎氏。その仕事のすべてが描かれた書籍『キャプテン! 日本のスポーツ界を変えた男の全仕事』がベースボール・マガジン社から発売された。本書に掲載された栗山英樹氏との特別対談の一部を抜粋し、不定期でお届けしていく。第3回は栗山監督と森保監督に感じる「ある共通点」の話題から。

「非カリスマ」の2人だからこそ


川淵 今回のWBC優勝で、栗山さんと森保一監督はタイプが似ている、と感じました。監督とは、しかも日本代表監督になれば、普通はカリスマを持っていて、選手にとってカリスマがあるから務まるというのが、世界中、過去を見てもみんなそうでした。森保監督には、カリスマがないって言ったら本人に怒られそうですが、さらに、栗山さんにカリスマがないって言ったら、ファンにも怒られるだろうけれども、そう思うんです。

栗山 僕に関しては、全くおっしゃる通りですね。

川淵 森保監督とは、僕が当時、日本サッカー協会の強化委員長として、ドーハの悲劇を共に経験していますが、全く目立たない選手で、当時の(ハンス)オフト監督に、どうしてこの選手を選んだの? と聞いたくらいです。オフト監督は、森保はチームのために運動量を落とさず、守備力や、地道にボールを回収する読みがあるとか、献身的な働きをするから選んだというので、試合を見ていたら、本当に献身的なプレーをしていた。それにしても目立たなかったですし、自分の主義主張を上に言う選手でもなかった。だからこんなに素晴らしい結果を出す監督になるなんて、当時は、監督になるタイプじゃないと思っていましたから、良い意味で驚きました。

栗山 森保監督は、そういう選手だったんですね。

川淵 今まで野球界の大監督、と呼ばれる人、例えば野村克也さんや星野仙一さんに象徴されるリーダー像ですが、栗山さんみたいな監督はいなかった。対談でここまでお聞きして、自然な形での訴求力というか、カリスマとは違いますね。サッカーも今、選手たちはみなヨーロッパで活躍しています。彼らは、自分のチームの監督と代表監督を常に比較する。森保監督の采配、何か違うな、もっとこうした方がいいなと、選手に思われると監督の立場がなくなると思います。

 だから監督として全く違うアプローチで、選手の目線を取り入れ、選手を信じて奮い立たせる。栗山さんも、選手を奮い立たせるのが本当にうまい。代表監督は、いい選手を集めて、やりたいように指揮できるんだと思われがちですが、全く違います。選手に対する気遣い、選手を出しているクラブへの配慮を、日本代表監督ほど強いられる苦しい立場はないですね。

栗山 本当にそうです。選手を選んだとしても、自分のやりたいようには絶対に使えません。選ぶより、むしろお預かりさせて頂きます、といった心境ですし、立場ですね。

川淵 そう、お預かりする、その言葉ですね。そこで一番胸を痛めるのは、代表活動中に選手が怪我をした時です。自分のチームで怪我をしたり、コンディション不良になったりしても、それはもう仕方がない。ただ、代表に来て怪我をすれば、所属チームに申し訳ないし、選手にも辛い思いをさせる。これが、代表チームの指揮を執るうえで一番しんどいですね。また、選手たちにはプライドがある。そのプライドを傷つけずに、調子の悪い選手もいるわけですから、どの立場の選手にも、何らかの力を発揮してもらおうと考える。メジャーの選手たちがこれだけ集まったのは、だからこそ大変な努力だったと、よく分かるんです。

栗山 今、キャプテンが言われた通りで、今まではカリスマ的な方が多かったと思います。今回のWBCで言えば、僕はとにかくアメリカをやっつけたかったんです。野球はアメリカで生まれたので、アメリカに行って、アメリカのスター選手たちをやっつけたいという、自分だけではなく先輩方の夢も引き継いでいますし、そのためにはメジャーリーグでプレーしている選手を、できるだけ多く呼びたいという思いはありました。ですから、カリスマどころか泥臭く、自分で足を運んで、正面を切って、どうかお願い致します!と、選手とチームに頭を下げ続けるしかないと思ったんです。日本の野球のために頼む、と。アメリカに行って、全員のチーム、関係者の元を回りながら、とにかく日本の野球のために力を貸してほしいと、お願いしました。そういう時に、サッカー日本代表が、W杯でドイツとスペインに勝ったという事実に、僕は勇気をもらいましたし、選手たちも、世界一のアメリカに勝ちたいんだ、と話す僕と、同じ気持ちを抱いてくれたんだと思っています。
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