元南海-大洋の佐藤道郎氏の書籍『酔いどれの鉄腕』がベースボール・マガジン社から発売された。

　南海時代は大阪球場を沸かせたクローザーにして、引退後は多くの選手を育て上げた名投手コーチが、恩師・野村克也監督、稲尾和久監督との秘話、現役時代に仲が良かった江本孟紀、門田博光、コーチ時代の落合博満、村田兆治ら、仲間たちと過ごした山あり谷ありのプロ野球人生を語り尽くす一冊だ。

　これは不定期で、その内容の一部を掲載していく連載である。

ここで俺を使うか！

　本の内容をちょい出ししている連載。

　今回も南海時代の野村克也さんとの話だ。ちなみに2つある怒ったことを両方紹介すると長くなるので1つだけ。

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　野村さんに、本気で腹が立ったことが2度ある。

　1度は、大阪球場でノーアウト満塁2ボール0ストライクから交代になって投げたとき。ファウルグラウンドにブルペンがあったんだけど、ピッチャーがコースを狙ってカウントを悪くしていたんで、試合を見ながら、「ああ、真ん中に投げりゃいいのにな」って思っていた。打つか打たないかは投げてみなきゃ分からんしね。

　そしたら野村さんが動いて投手交代。「このあと誰が投げるんだろ、投げるやつは大変だな」と思っていたら俺だった。はっきり言って嫌だったから、投手コーチに「おい、ミチ、お前だぞ」って言われても「嫌です。聞こえません」って言った。

　仕方なく投げたら、案の定、初球ボールでノースリーになった。当時、俺はスライダーしかストライクが入る自信がなかったから、そこからスライダー勝負さ。1球ファウルされたあとだったかな。やばいなと思いながらも、四球は嫌だし、打つなら打てと投げたら、レフトへの犠牲フライ。しまったとは思ったけど、その1点だけで試合は勝ったよ。

　あのときはカッカしちゃって、「野村さんは俺のことを嫌っているのかな」と本気で思った。

　だって2ボールからだぜ。どうせなら最初から投げさせろ、こんなとこで使うか！　という場面だからね。しばらくして平和台球場でメシを食っているとき、野村さんの近くの席になったんで、思い切って言ったんだ。

「監督は僕を嫌ってないですか。あのとき僕に恥かかそうとしたでしょ」

　そしたら野村さん、あのボソッとした話し方で、「そんなわけないやろ。あのとき続投なら押し出しのフォアボールは見えていた。ミチなら打たれるかもしれないが、フォアボールはないと思ったんだ。あそこは1点は仕方がないが、アウトが欲しかったからな」そう言われると、なんだかうれしくなってね。「ならいいんですが」って。少し顔がニヤついていたかもしれんね。俺も単純だな。